最近、盛んに叫ばれるようになった「働き方改革」。だが、実際のところ、何のために何を取り組めばいいのか見えていない経営者も多いのではないか。日本マイクロソフトは2011年から全社で本格的に働き方改革に着手、社員一人ひとりが最も効率のいい働き方を自分で決められる取り組みを実践している。働き方改革先進企業と言われる同社の平野拓也社長に「何のために働き方改革を行っているのか」、その本質を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 山出暁子)
目指す企業像がない働き方改革は苦労する
――政府主導で始まった働き方改革ですが、実際のところ「どう取り組めばいいのかよくわからない」という企業が多いようです。日本企業が働き方改革を取り組むとき、“障害”になるのはどのような点でしょう。
平野 10年前と比較して個人のワークスタイルや価値観が大きく変化しているなかで、日本人の働き方だけが、古い構造のまま凝り固まっていることが問題だと思います。だから新しい働き方のアイデアが出にくくなっており、社内で「働き方改革」の旗を掲げても、人事や総務など、ある部署のプロジェクトに限定して留まってしまう。
もしくは、「時短」「テレワーク」などの形から入ってしまい、本質的なところで必要性を感じていないということもあるかもしれません。なぜやるのか、どうしたいのか、どんな企業像を目指すのか、というビジョンを描けていない企業はすごく苦労されているでしょうね。我々が品川に新オフィスを構えて6年経ちますが、90万人のお客様が来社され、その約1割の方が私たちの働き方を参考にしたいとオフィスツアーに参加されました。それだけ働き方を模索している方が多いということでしょう。
――日本マイクロソフトは、政府主導の動きが出るよりもっと早くから働き方改革に取り組んでいたということですが、きっかけは何だったのですか。
平野 外資系とはいえ、かつてはいわゆる日本企業的な働き方をしていました。徹夜は当たり前で不夜城みたいでしたし、オフィス中が紙の資料に囲まれていて。IT企業ですから「ペーパーレス」や「テレワーク」などもやってみよう、と取り掛かってみていたものの、なかなか定着しなかったのです。なぜかといえば、それまでの働き方の文化があまりにも根強かった。「このやり方で結果を出してきたんだ」という成功体験が身体に沁みついていたんです。みんなで遅くまで仕事をして、そこでチームスピリットを作ることこそ大事だ、といったような。
――バブル時代の「24時間戦えますか」の働き方ですね。
平野 そうです。それが変わったきっかけは、いくつかありますが、一つは2011年のオフィスの移転です。オフィスが変わるからそこで一気に、今まで感じてきた問題点、失敗の経験、成功体験も含めてですが、すべて働き方をデザインし直してみよう、ということになった。
さらに、決定的だったのは東日本大震災です。オフィスを移転して1ヵ月後に震災があったのですが、実際にオフィスに来られない中で仕事を進めなければならなくなった。そこで、全社で一斉にテレワークをしてみたんです。自宅待機ではなく、自宅で働く、と。そこから1週間くらいテレワークを全社でやってみたところ「これはできるじゃないか」と体感できた。そこから一気にガラっと変わりました。そうした働き方をしたほうがいい仕事ができる、と体感できて、社員たちの「腑に落ちた」ということが大きかった。そうでなければ、浸透するのは難しかったと思います。