ベンダーが発注者を見捨てるとき

「こんなやる気のない担当者を置くプロジェクトには、発注者も、あまり力を入れていないんだろう」

「これは、傷の少ないうちに手を引いたほうが良いかもしれないな」

こうなると、もう、ベンダーは「なるべく自分の仕事を早めに切り上げてしまおう」と考えます。

そして、たとえば発注者の受け入れテストの支援をろくに行なわなかったり、導入後のサポートがなおざりになったり、新たな機能追加について、まともに相談にすら乗ってくれない場合があります。

それどころか、契約を途中で打ち切ってしまうケースもあります。まさに、ベンダーが発注者を「見捨てた」状態で、当然、プロジェクトはめちゃくちゃになります。

ただ、誤解しないでいただきたいのは、ベンダーが逃げるのは、プロジェクト発足時に、発注者に十分な業務知識や専門知識がないからではありません。

たとえ知識がなくても、それについて学ぶ意思があり準備ができていること。そして何より、自分の学ぶべきことをシステム導入の目的に照らして把握している担当者であれば、ベンダーも見捨てたりしません。

「ウチの保険契約事務はとにかく人手不足で、パートやアルバイトの人たちの力を借りて、なんとかまかなっている」
「その人たちが、正社員と同じ生産性で保険契約の処理ができるように、ITシステムを導入したい」
「ただ、自分は、この部署に来て間がないので、保険契約事務のプロセスや現場の人の苦労をまだ知らない」
「これから、社内の業務研修や現場のヒアリングを通して、学ばないといけないと思っている」
「だから、できる限り、力を貸してほしい」

そういうことを言える担当者であれば、ベンダーは見捨てることなどなく、むしろ、自分の知っている保険業務のことについて、積極的に情報共有をしてくれるものです。

「本当に役に立つシステム」を作る第一歩は、そこから始まります。

私の著書『システムを「外注」するときに読む本』の第2章では、自分とは関係のない業務のシステム開発を担当することになった係長が、「ベンダーにすべてを任せればいいだろう」と考えた結果、トラブルが起きて、システム開発プロジェクトが大ピンチに陥ります。

ご自分の会社や業務にあてはめていただきながら、ぜひ、ご一読くださればと思います。

細川義洋(Yoshihiro Hosokawa)
経済産業省CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。立教大学経済学部経済学科卒。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員。 大学卒業後、NECソフト株式会社(現NECソリューションイノベータ株式会社)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エム株式会社にて、システム開発・運用の品質向上を中心に、 多くのITベンダと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行なう一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。
これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より経済産業省の政府CIO補佐官に抜擢され、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる。著書に『システムを「外注」するときに読む本』(ダイヤモンド社)、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか!』『モメないプロジェクト管理77の鉄則』(ともに日本実業出版社)、『プロジェクトの失敗はだれのせい?』『成功するシステム開発は裁判に学べ!』(ともに技術評論社)などがある。