メディアは年金不信を煽り過ぎ。
国民年金ほど有利な年金商品はない

 厚生労働省は7月13日、2010年度の国民年金保険料の納付率が59.3%となり、3年連続で過去最低を更新したと発表した。由々しき事態である。特に若い世代の納付率が低い。20~24歳が49.2%、25~29歳が46.6%、30~34歳が50.9%と2人に1人が納めていない状況である。

 これは先述した若い世代の所得の低さが主因だと思われるが、メディアが年金不信を煽っていることも大きい原因ではないだろうか。現に何人もの若者から「政府の年金は当てにできないので、個人年金や投信等で準備をしている」云々という話を聞かされた。

 これは大きな勘違いだと考える。まず第1に、政府が年金を支払えなくなる時は政府が破綻する時である。政府が破綻した時にわが国の金融機関が無傷で残っているとは到底考えられない。恐らく政府の破綻以前にわが国の金融機関の大半は破綻しているであろう。

 第2に、国民年金は納付金に税金をプラスオンして支払われる仕組みとなっている。現在では10兆円を超える税金が投入されており、そうである以上民間の金融機関では、逆立ちしても政府の国民年金より有利な年金商品を作ることは誰にもできないのである。ましてや、昨今のような低金利状態では複利効果も期待できない。

 すなわち、現状では国民年金ほど有利な年金商品は実はどこにもないのである。このようなごく当たり前の事実を、メディアは広く市民にPRする責務があるのではないか。物事の一面のみを捉えて、いたずらに不安を煽ることだけが、メディアの仕事ではあるまい。年金不信を煽ることで、低年金や無年金の市民が増えたとしたら、メディアは一体どのようにしてその責任を取るつもりなのだろうか。

 その一方で、具体的な数字やデータに立脚したすばらしいメディアがないわけではない。例えば7月18日の日経・エコノフォーカスである。これによると、わが国の家計貯蓄率は高齢化の影響を除外した数値でみると、23.4%(09年)と78年以来実に30年ぶりの高水準となっており、その主な理由は将来の年金不安であるという。これではGDPの大宗を占める個人消費が本格回復するはずがない。

 同記事で関西学院大学の亀田准教授は「個人の期待を変えるほどの大規模な財政健全化が打ち出されれば(消費抑制の緩和に)効果がある」と指摘している。また同記事によれば、「年金制度への信頼度が高い北欧では消費支出が所得を上回る」という。社会保障と税の一体改革を成し遂げ、将来不安を取り除くことこそが、わが国の景気回復の本筋でもあるのだ。


(文中、意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)