サントリーの新商品ビール「頂(いただき)」のPR動画が、「下品」「気持ち悪い」という批判を浴びて炎上している。サントリーは7月3日にこの動画を、特設サイト、YouTube、Twitterで配信開始したが、炎上騒ぎを受けて7日に配信停止にした。しかしここがネット社会の怖いところで、公式サイトからは削除されたものの、多くの人がYouTubeなどで勝手に配信しているため、いまだに閲覧できる状態にある。関心のある方は、検索して視聴してみてほしい。
この動画の内容を簡単にお伝えすると、北海道、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の6都市を舞台に「出張先の飲み屋で偶然出会った若い女性と仲良くなって、飲食を共にする」という設定。全国各地の美女たちが、「2人っきりになっちゃいましたね」とか、「1週間前にフラれてしまって」とか、「肉汁、いっぱいでました」とか、男心をくすぐるようなセリフを投げかけるというものだ。
この動画に対して、「気持ち悪い」「卑猥」「不快」「女性を商品化している」といった批判が殺到しているわけだが、5月にもユニ・チャームが展開する赤ちゃん用おむつブランド「ムーニー」のCMも炎上するなど、このところ企業CMの炎上騒ぎが続いている。当然ながら、企業は「炎上騒ぎ」は避けたいもの。そこで今回は、サントリーとユニ・チャームの事例をもとに、炎上騒ぎが起きてしまう要因を考えてみたい。
「女性の商品化」「男の妄想」だけが
炎上の理由なのか
まずサントリーの件だが、ジェンダー論の学者を中心に多くの女性論客から寄せられている批判が「女性の商品化」という批判であり、「男の妄想を描いただけ」という指摘だ。もちろん、これは間違った批判ではない。しかし、それだけの説明では、今回のサントリー動画が炎上した理由は説明し切れていない。なぜなら、「女性の商品化」や「男の妄想」が、必ずしも炎上騒ぎに結びつくわけではないからだ。
そもそも消費社会というのは、あらゆるものを「商品化」する。女性の商品化を常に批判するジェンダー論自体さえも商品化されることもある。問題となるのは「商品化」そのものではなく、「商品化のあり方」で、それが不適切な場合に炎上するのだ。
そして「男の妄想」に関しても同様で、CM、PR動画、ポスターなどあらゆる宣伝媒体は「消費者の妄想」をかき立てることで成立する。化粧品やジュエリー、高級ブランド服などの広告は女性の妄想を描くことで成立するし、ミニバンのCMは家族の妄想を描くことで成立する。エコ商品の広告はロハス志向や環境志向の人たちの妄想を描くし、都民ファーストのポスターは「小池百合子ならなんとかしてくれるに違いない」という都民の妄想を描いている。
それは機能性を訴求するタイプの広告でも同様だ。吸引力という「機能」を訴求する掃除機の広告でさえ、生活者の「ダニのいない家」という妄想を刺激している。運動性能を訴求するスポーツカーの広告は、「これに乗ってハイウェイをぶっ飛ばすカッコいいオレ」という、ある種の男性の妄想に訴求している。
このように、ありとあらゆるプロモーション表現やコミュニケーション表現とは、「ターゲットの妄想」を描くものである。それゆえ、男性の妄想だけが批判されるいわれはないし、実際、批判されないことのほうが多い。その典型的な例が、ビールのポスターだ。いまでも地方のドライブインとか、新橋あたりの古いタイプの居酒屋とか、小さなスナックとか、いかにもオヤジしか行かないような飲み屋に行くと、水着を着た若い女性がモデルとなったビールのポスターが貼られている。これなどまさに「女性の商品化」であり、「男の妄想」でしかないが、フェミニズム陣営からでさえも、この手のポスターに対する批判はほとんど聞かない。
その意味では、AVもグラビアアイドルもキャバ嬢もまさに「女性の商品化」であり、「男の妄想」だが、こちらも批判はされない。ちなみに、若い女性を騙してAV出演させることが社会問題になっているが、この問題に取り組む女性団体も「騙すことが問題だ」と言っているだけで、AV自体を否定しているわけではない。まれに性の商品化自体が問題だと言っている団体もあるが、それは少数派だ。