話す相手が近くにいる場合は、ほとんどどんな投げ方=話し方でも相手にボール=メッセージは届きます(もちろん、相手が近くにいるのに、ふつりあいな大声で話すと相手はびっくりしますよ)。
では、相手がだんだん離れていくにつれ、どう話したらいいでしょう。相手にメッセージがちゃんと届くように、「体をゆったりと使って=ゆったりと息を吸って」、「相手に届くような方向で=少し顔を上向きにして」、小手先ではなくしっかり話すようにするのです。距離が遠いと、相手にメッセージが届くまで時間もかかりますから、次のメッセージを受け取る体勢が整うまでは、次のメッセージを投げてはいけません。そうです。間をとるのです。
おわかりでしょうか。シンプルに言うと、ことばを確実に届けるためには、相手をしっかり見てそれにふさわしい音量と方向を意識して話せているかどうかが大切なのです。少々声が良くなかったり音量が足りなかったりしたとしても、相手にことばを届けようという思いがしっかりあれば、聞き手はその思いをくみ取ってことばを受け取ろうとしてくれます。逆に、自分勝手にことばを発している場合は、どこにことばを届けようとしているかが聞き手にはわからずことばをしっかり受け取れないのです。
非常に抽象的な表現で恐縮ですが、アナウンサーという仕事を20年以上やってきて感じた伝えるためのコツはまさにこれです。聞き手をちゃんと意識して、なんとかこのことばが届くようにと願いながら、メッセージを一つ一つ投げかけていく。この姿勢こそ大切だと断言します。
* 心に届く話し方ルール *
相手をしっかり見て、その人に届くような音量と方向を意識して話す
松本和也(まつもと・かずや)
スピーチコンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から株式会社マツモトメソッド代表取締役。
アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ・木曜時代劇」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。
現在は、主に企業のエグゼクィブをクライアントにしたスピーチ・トレーニングや話し方の講演を行っている。
写真/榊智朗