「世界で最も尊敬される研究」といわれるDIAN研究

森啓(もり・ひろし)/大阪市立大学大学院医学研究科脳血管内治療・頭蓋底外科病態学寄附講座特任教授。医療法人崇德会田宮病院顧問。日本血管性認知症学会・顧問。日本認知症学会・名誉理事(前理事長)。日本医療研究開発機構「DIAN-J臨床研究」主任研究者。日本医療研究開発機構「AMEDプレクリニカル(J-ADNI後継事業)臨床研究」主任研究者。日本医療研究開発機構「認知症臨床ゲノム研究」主任研究者。1950年生まれ。74年、大阪大学理学部卒。79年、東京大学大学院博士課程修了。87年から90年までハーバード大学リガムウーマンズ病院神経病センター研究員(神経科学部門)。東京大学医学部脳神経病理学教室助教授、東京都精神医学総合研究所分子生物学室長、大阪市立大学大学院医学研究科教授などを経て、15年から現職。

 研究の対象となるのは、家族性アルツハイマー病を起こす遺伝子「APP(アミロイド前駆対遺伝子)」「PSEN1(プリセニリン1遺伝子)」「PSEN2(プリセニリン2遺伝子)」のいずれかに遺伝変異を持つ親の子どもです。両親のどちらかが家族性アルツハイマー病を発症している場合、子どもは50%の確率で遺伝し、ほぼ100%の確率で発症します。

 遺伝背景と生活背景が類似した親と子どもの発症年齢(多くが40代で発症)と罹病期間はほぼ一致しており、親の発症年齢の15~10年前から認知機能は低下。海馬の容積が縮小します。そのため、薬剤の効果評価が非常にスムーズに行えます。「自分の子どもだけはアルツハイマー病の発症を防いでほしい」。そのような親としての切実な思いで、これまで多くの人たちがこの研究に参加し、医師と共にアルツハイマー病と戦っています。「世界で最も尊敬される研究」とも言われるゆえんはそこにあります。

 13年からは、新薬を用いた医師主導型の治験「DIAN-trials Unit(DIAN-TU;ダイアン・ティーユー)」がスタートしました。第一期では、イーライリリーの抗Aβ抗体「ソラネツマブ」と、中外製薬とロシュの抗Aβ抗体「ガンテネルマブ」を使用。治験参加者をコンピュータによりランダムに4つのグループに分け、新薬(70%)とプラセボ(偽薬)(30%)をそれぞれ投与し、臨床経過が検討されました。

 今年は新たに日本人(※)を含む全世界で600人を対象に、第二期の治験を行う予定です。治験中新薬候補の中から選び、有望な薬剤であれば投与を継続し、効果が認められない場合はその時点で別の薬剤へと切り替えます。有効な薬剤に出合うまで、次々と新薬剤の投与を続けます。

目指すべきは認知症の人が
幸せに暮らせる共存社会

 アルツハイマー病を含め、認知症の根治治療薬はいまだ開発されていません。テレビや新聞、雑誌で、認知症予防に関する情報を日々目にします。予防は非常に大切です。ただ、過度な予防意識の高まりは、認知症に対する恐怖の裏返しでもあり、「自分には関係ない」「自分はそうなりたくない」という偏見や差別と表裏一体とも言えます。今、私たちが目指すべきは、アルツハイマー病の人が安心して暮らしていける社会です。弱者、障害者、病者が共に支え合って生きる共存社会こそ私たちが望む社会であり、単純な競争社会よりも強く、豊かであると、私は信じています。

(※)未発病者を対象にボランティアを募っています。将来の自分の子どもたちのために、20歳以上の方が研究対象者となることができます。研究の参加を希望される方はご連絡ください。
相談・問い合わせ:0120-342-605(平日10~17時)
DIAN-J公式サイト:http://dian-japan.com/