何年か前、米ワシントン大学の研究グループが「睡眠不足はアルツハイマー病(AD)の発症要因」という研究結果を報告した。マウスの睡眠を意図的に奪って観察した結果、ADの発症の一因とされる「アミロイドβ(いわゆる老人斑)」の脳内蓄積が促進される、というのだ。

 今年3月、同じグループから英国の医学誌「JAMA神経学」に、今度は人を対象とした研究の続きが報告された。

 今回の対象者は45~75歳の健常者145人。もともとADの長期研究のためにボランティア参加している人々だ。事前に採取した骨髄液のサンプルから既に32人のアミロイドβ濃度が高く、ADの前段階にあることが判明している。ただし、認知機能には影響していない。

 参加者は2週間、就寝時間と起床時間、昼寝の時間などを記録。同時に手首に着けたセンサーで睡眠中の体の動きをモニターし、客観的な睡眠時間を計測した。その結果、すでにアミロイドβ蓄積の兆候がある32人は、ベッドに収まっているわりに睡眠時間が短く、1週間に3日以上、昼寝を必要とすることが判明したのだ。

 研究者は「最も睡眠効率が悪かった被験者は、睡眠がよい人よりも5倍以上、初期ADを発症する可能性が高い」としている。

 現時点で睡眠障害がアミロイドβの蓄積を誘発するのか、逆にアミロイドβの蓄積が睡眠障害を引き起こすのかは不明。ただ、睡眠に問題があり、家族にADの既往者がいる場合は生活のリズムを考え直したほうがいい。

 近年、ADは自覚症状が出る以前の予防に焦点が移っている。自覚症状が出てからでは、残念ながら対応が遅いというのだ。

 薬以外の予防手段は、有酸素運動の継続、緑黄色野菜やDHA豊富な青魚を食べる、などこれまでにも指摘されていることを続けるほかない。今回の研究報告からすると、寝具や寝室の環境の見直しも効果がありそうだ。

 この研究は、現在もさらに若い被験者を対象に継続中。結果次第では、睡眠導入剤がAD予防薬になる日が来るかもしれない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド