ほとんどの人は「日経新聞」も読めていない

 日経新聞を使って一つ例を挙げ、もう少し知識の重要性について考えてみます。

 最近の日経新聞には「コーポレートガバナンスがどうのこうの……」という記事がよく出てきます。では、「コーポレートガバナンスについて正しく説明してください」と言われて、あなたは説明できるでしょうか。

「ああ、コーポレートガバナンスね」と言葉は知っていても、多くの人はそれが本来的にどのような目的を持っていて、組織の中でどのような意義を担っているのかということについて、はっきりとは説明できないのではないでしょうか。

 そんな状態でありながら、会社などでは、「コーポレートガバナンスのことを考えれば、社外取締役を増やすべきだ」「著名人を社外取締役に任命しよう」などとさまざまな議論がされていて、的外れな対策が講じられたりしています。

 こうした、本質を踏まえない表面的な議論が展開されるケースは意外と多いものです。

 じつは、この「コーポレートガバナンスとは何か?」といったことは大学受験用の参考書でわかりやすく定義されています。

 大学受験の参考書である『理解しやすい政治・経済』(松本保美監修、文英堂)によれば、コーポレートガバナンスとは、「企業を運営するための統治機構」のことです。つづけて、「経営者が、自己の利益を優先し株主の利益に反したり反社会的行動をとることを監視・統制するために、どのような統治機構が必要かといったことが議論されることが多くなった」と説明されています。

 資本主義が発展するにあたり、資本の所有と経営が分離されてきた結果、資本家が経営者を監視するために、ガバナンス強化が必要になってきたわけです。その意味では、たとえば著名人の取締役を増やすこと自体には何ら意味はありません。

 裏を返せば、大学受験程度の知識を持っているだけで、さまざまな場面で本質的な意見を言ったり、相手に「この人の話には耳を傾けよう」と思わせることができるのです。

 本来、大学受験とは、大学でのアカデミックな学習とその先にある研究や社会生活において必要なものをひと通り身につけているかをチェックすることを目的としています。

 当然、高校生には経済学部に進む人もいれば、工学部に進む人もいます。そんな高校生に、「最低限これだけのことは知ってから大学に来てほしい」という思いで、一般教養レベルの問題が網羅的に出題されるのが、大学受験の入試問題なのです。

 つまり、大学受験参考書には大学で学ぶような各論ではなく、「(みんなが知っておくべき)共通の知識のベース」が集約されているのです。

(本原稿は、侍留啓介著『新独学術 外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法』より抜粋・編集して掲載しています)