ヒットの裏にある苦悩

 カムリ開発責任者の勝又正人氏は「カムリのニックネームである『食パン』には、なくてはならない存在だが、ワクワクドキドキしないという意味も込められている。このままではまずいという危機感があった」と話す。ホンダ日本本部長の寺谷公良氏も「ホンダらしい個性が昔より薄れたという声をよく聞く。そうした問題意識の中でシビックを日本で復活させたいと思った」と言う。

 自動車メーカーの収益の源泉は台数規模だ。だが規模を追い続ければ、個性が埋没する。電動化や自動化で新規参入も相次ぐ中、迎え撃つ車メーカーとしては、セダンならではの走行性能やデザイン性など伝統的な強みを打ち出し、差別化を図らなければならない。

 だが例えばシビックの場合、日本で売り上げが伸び悩み、11年に販売終了となった経緯がある。そもそも車離れが進む日本の若年層に対し、ホンダがシビックに込める「(車を)操る喜び」、あるいはトヨタがカムリに込める「セダン復権」という、やや懐古的なメッセージが届くかは疑問だ。

 そこで両車のターゲットとなるのが、今や国内運転者の3人に1人とされる60歳以上の高齢層である。70~80年代にマイカーを購入した彼らにとって、カムリやシビックは郷愁を誘う車に違いない。トヨタは積極的にその世代へ向け「もう一度あのころのワクワクを」とカムリ購入を呼び掛ける。

 セダンの日本投入は斬新な挑戦ではあるが、オールドファンに頼らざるを得ないというのが現状といえそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)