要約者レビュー
養老孟司、 202ページ、PHP研究所、850円(税別)
千年以上の歴史を持つ古都であり、観光都市として絶大な人気を誇る京都。一方で、京都には次のような独特の世界観がある。「いちげんさんお断り」を掲げている老舗には、紹介者がいないと入れない。また、「考えときまひょ」という常套句は断りを表現したもので、言葉どおりに受け取ってはいけない。「いちげんさんお断り」や「考えときまひょ」などは、よそ者には冷たく感じられ、「お高くとまっている」と批判の的になることも少なくない。自分たちの習慣や文化を頑なに守る姿勢は、他の都道府県出身者から見ると、京都の「壁」ともいえる。
著者は、『京都の壁』について、都市の構造や共同体の視点から解説する。京ことばの意味や京都人の他人との距離の取り方を踏まえて、京都人の意識の中にある「壁」の正体を解き明かしていく。
京都人は、歴史や伝統を大切にしている一方で、新しいものにも関心が高い。また、京セラ、オムロンなどのIT関係企業も数多く輩出している。「Nintendo Switch」をヒットさせた任天堂も京都発の企業だ。学生が多い街でもあり、サブカルチャーを生む土壌も整っている。
情報社会においては、写真や言葉で多くのことが伝達可能となっている。しかし、京都という都市が持つ空気は、実際に訪れないと感じ取れない。京都の「壁」は、京都の魅力でもある。本書は京都と京都人の本質を多面的に理解し、味わえる貴重な一冊だ。京都を訪れる前に読めば、京都の魅力を再発見できるにちがいない。(河原レイカ)
本書の要点
(1) 京都人は、「内」と「外」を区別する意識を持っており、それが心の「壁」を生み出している。
(2) 「考えときまひょ」という常套句は、しこりを残さない断りの表現であり、「いちげんさんお断り」という文化は、商売を長続きさせるための知恵である。
(3) 祇園祭のような伝統行事は、京都の町衆に支えられてきた。京都は市民の力に富んだ都市である。
(4)京都は歴史や伝統を大切にする一方で、新しいものに対する関心が高く、ベンチャー企業も多い。サブカルチャーを育む土壌も整っている。