「メモ」するだけで
素材はどんどん増えていく

人間の脳は不思議なもので、「これをやらないといけない」とずっと思っていると、突然、頭の中にひらめいたりします。

目的と読者を決めて素材を探していると、ふとした瞬間に、「あ、これは文章の素材になるな」というタイミングが、何度も訪れるはずです。

大事なことは、その浮かんだ素材を、漏らさず確実にキャッチすることです。
単純に、ひらめきをメモするのです。

すべて残らず、必ず、メモしてください。
あとから思い出すことはできないと思ってください。
自分の記憶力は、絶対に信用してはいけません。

ある大学教授への取材で、「どうして人間はすぐに物事を忘れてしまうのか?」と質問したことがあります。人間はとにかく「短期記憶」に弱く、すぐに忘れてしまう。それはなぜなのか。

その教授は、「すぐに忘れること」は、太古の昔から人間のDNAに刻み込まれている本能だ、と言いました。人間はかつて、動物たちと同じようにジャングルで暮らしていた。猛獣や猛毒を持つ昆虫などがウヨウヨいて、一瞬でも気を抜けばガブリと喰われる世界。

だから、常に周囲に注意を払い、集中力を切らせてはいけなかった。目の前の出来事から気をそらしてしまうことは、すなわち「死」を意味したのです。

そんな状態で、何か1つのことが脳内を占領してしまったら、注意力が散漫になり、周囲に気を配れなくなり、命を落としてしまう。そうならないよう人間はすぐに物事を忘れるようにできている、という話でした。だから、思いついたことは「外部記憶」としてメモをしなければいけないのだ、と。

これは、少なくとも私の個人的な実感としては、その通りだと思います。
「これは文章の素材になるな」と思ったら、余計なことは考えずに、1行の箇条書きでいいから、即座にメモを取る。そうやって、どんどん素材をストックしていく。

たとえば、工場視察の体験レポートのような文章を書くときは、実際に現地に足を運びますよね。それは、素材をあつめる「取材」です。そんなときこそ、見たこと聞いたこと感じたことを、できる限りメモしておくことが重要です。

メモすること自体が面倒くさいと感じるかもしれません。
でも、それはすべて、あとで迷わずに速く文章を書くための素材になるのです。
というよりも、取材時間は変わらないのですから、ムダに感じることはありません
むしろ、同じ時間内に、どれだけメモしておけるかが書く速さを決めるのです。

メモ1つせずに、記憶力だけを頼りにぶっつけ本番で真っ白なファイルの前でキーボードに手を置いても、思い出そうとして思い出せない、ということが必ず起こります。
その、「思い出そうとする時間」が、書くスピードを落とすのです。
ましてや取材をし直すようなことになれば、致命的に膨大な時間が奪われます。

まとめます。

文章は、書くことが決まった瞬間から素材探しをスタートさせる。
そして、締め切りまでの時間を使って、たくさん素材を集めておく。
そうすれば、何を書くべきか迷うことはなくなる。
結果的に、悩まず、迷わず、速く書ける。

なお、具体的なメモツールや、集めた素材をどう素早く文章化するか、また、素材をどう構成することがベストなのか、という点については、私が23年間のキャリアの中で見出した独自のノウハウを紹介しているので、ぜひ『超スピード文章術』をご覧になって、使い倒してください。