ラブシーンでは、「な行」「ま行」を多くすると、色っぽくなる

――脚本を拝見すると、どうしてセリフだけでここまでドキドキできるのか、不思議でした。

 小説のセリフというのは、読み言葉なんですよ、ほとんど。例外的に田辺聖子さんの小説のように、ものすごくうまいセリフもある。でも、うまくないケースのほうが多い。読み言葉を話し言葉にしないといけないわけですね。

「あっ」とか「うう」とか入れて。これは間をちゃんと取ってほしい、とか、クセがあるよ、ということなんです。そういうものも、ちゃんと入れないといけないわけですね。キャラクターは、話し言葉になっていないといけないんです。

――話し言葉をうまく書くコツは、あるのでしょうか。

 これはいろいろあります。例えば、ラブシーンでは、「な行」「ま行」を多くすると、色っぽくなるんですね。逆に警官ものだと、「た行」や「か行」を多くする。どこかに書いてあったわけではないです。僕が考えました。

 僕は昔、歌手をやっていましたから、歌を歌うときに、いろいろ学んだんです。実際、「な行」「ま行」が多いと、歌は色っぽく聞こえるんですよ。鼻濁音です。それこそ女性を口説くときには、「な行」「ま行」を意識するといいかもしれない(笑)。

 ところが今の人は、鼻濁音がしゃべれなくなっているんです。言葉が退化している。もともと九州の人などは鼻濁音は使わなかったんですが、関東の人はしゃべっていたんです。金魚を「きんにょ」と言ったりね。

 今の若い人になると、ボキャブラリーが300くらいしかない、なんて言われていますね。これは本当にもったいない。いろんな言葉を使うことで、いろんなことができるようになるんです。

――言葉の貧困は、今は社会問題にもなっています。

 だいたい政治家からして言葉がダメですからね。「××かなぁ」なんて言葉を、政治家が使うでしょう。国を司る人の言葉としては、絶対にありえない。
そういえば、大きな事故を起こして、お詫び申し上げたいと思います、と電力会社が言っていましたが、これ、実は詫びていないんですよ。思っているだけでね。そのあと、すいません、と言葉が出てくれば別ですが、出てきませんでした。

――こんなことになってしまったのは、どこに原因があったのでしょうか。

 おかしくなったのは、戦後、アメリカが入ってきてからでしょう。なんといっても、縦書きが横書きになってしまったわけですからね。

 こうやってしゃべっているときに、メモを取っているあなた方も、横書きですね。公文書もそうですが、みんな横書きになってしまった。これは、ものすごい文化大革命なんですよ。1200年間、縦書きだったものが、横書きになっちゃったんだから。

 だから、「旧中山道」を「いちにちじゅうやまみち」なんて、アナウンサーが読んでしまったりする(笑)。言葉が壊れてしまったんです。

 僕はワープロを使っていますが、脚本を書くときは、縦書きです。それこそ、横書きで書かないといけなくなったら、脚本家を辞めると言っています(笑)。