なぜ、このような仕組みが有効に機能し得たのか。それは終身雇用・高度成長を誰もが信じて疑わなかったからであり、人口も増えていたので、土地の値段がいわば半永久的に右肩上がりに上昇し続けると考えていたからに他ならない。平たく言えば、住宅ローンを払い終えた人は、たとえ建物の価値がなくなっても、購入当時の何倍かの値段で、その土地を処分できると信じていたのである。

 このような楽観的な想定の下で、持ち家政策を基軸とした住宅建設は乗数効果が高いということで、度々、景気対策の目玉ともなり、その結果、わが国は世帯数を大幅に上回る住宅ストックを抱えることとなった。2008年の住宅・土地統計調査によると、総世帯数4,999万世帯に対して、総住宅数は5,759万戸と、実に760万戸も上回っており、しかも5年前に比べると、その差がさらに拡大しているのである。

低成長かつ単独世帯にふさわしい
住宅政策とは何か

 国際的に見ると、住環境が充実しているとよく言われる欧州大陸の国々では、わが国に比べて一般に持ち家比率が低く、その半面、一戸当たり面積の広い多様な賃貸住宅が多数供給されている。これを一つのヒントにして、わが国の住宅政策を考えてみよう。まず、最初に持ち家と賃貸を比較してみたい。

 わが国の住宅の平均購入価格は、土地付き注文住宅が3,500万円台、マンションが3,700万円台となっている(住宅金融支援機構「2010年度フラット35利用者調査報告」)。これに対して、2010年のわが国市民の平均所得は、約550万円に過ぎず、住宅を購入するためには多額のローンを組む必要がある。

 持ち家と賃貸を30歳から85歳までの総コストで比べてみると(2011年9月24日付、日本経済新聞朝刊、プラス1)、頭金500万円でフラット35を活用して3,500万円のマンションを購入した場合、ローンの利息は1,486万円で、総コストは7,031万円となる。これに対して、55年間の家賃総額は月10万円なら6,600万円、月12万円なら7,920万円となる(ちなみに、わが国の平均家賃は5万円台である)。単純に支出額だけを比べると、現在の借入金利を前提にすれば、家賃10万円のレベルが損益分岐点となるようだが、その他にも考慮すべき点が多いのではないか。