世界的に飲酒による健康被害が問題視され、2020年の東京オリンピックに向けて日本でも酒規制の動きが強まっている。そんななか、「産業と文化としても酒場という場は大切です!」と語るのは、『コの字酒場はワンダーランド ―呑めば極楽 語れば天国』(六耀社)の著者で、漫画『今夜はコの字で』(集英社)の原作者である加藤ジャンプ氏だ。
「呑んべえ失格者」の急増で
強まる酒規制
今年6月、酒の過度な安売りを規制する改正酒税法が施行され、ビールや発泡酒の値上げが相次いだ。
これに加えて、「居酒屋の飲み放題禁止」「バーとスナック以外での屋内全面禁煙」といった、飲食店を対象とした規制の話題も浮上するなど、呑んべえには面白くない時代だ。酒と呑んべえを題材にした作品で知られる加藤氏は、こんな現状をどう観察しているのだろうか?
横浜駅(きた西口)を出てすぐのところに、昔ながらの酒場がところ狭しと並ぶ横丁がある。今回、加藤氏と待ち合わせた場所は、横丁の入り口に店を構える創業60年の老舗酒場「のんきや」。この店の常連である加藤氏おすすめのシロ(タレ)を肴に、瓶ビールで喉を潤しつつ取材はスタートした。
まず政府のアルコールの大義名分である健康被害について、加藤氏に話を聞いた。
「たしかに健康被害は大変な問題ですよね。依存症を減らす対策を打つのは大事なことだと思います。ただ、ちゃんとした店主のいる良き酒場は、泥酔した客はお断りが基本ルールです。まずはどこで、どうして健康被害が発生しているのか見極めることが大事でしょうね」(加藤氏、以下同)
アルコールは、口から入った後にアセトアルデヒドに分解される。アセトアルデヒドには毒性作用があり、動悸や吐き気、頭痛などを引き起こす原因となる。東京消防庁によると、2015年に急性アルコール中毒で救急搬送された人数は、1万5474人と過去最多だった。年代別に見ると、20代が6650人と突出して多い状況である。
「酒はたしかに依存しやすい嗜好品です。だから嗜むには自制心が重要ですよね。からむとか暴れるなんて人は、議論の余地なく飲んじゃダメ。できれば、誰もが若いうちに、年長の呑んべえといい酒場に行き、自分の適量や奇麗な酔い方を知ることができればいいんですけどね。飲み方を知らない人が増えてしまったのは、年長の呑んべえにも責任がある。率先して若い人にいい呑んべえの範を示さないといけないと思います」
厚生労働省の調査によると、酒の飲み過ぎによる病気や怪我の治療費、労働損失は、年間4兆1483億円ともいわれており、その額はアルコール飲料の国内市場規模の約3兆6000億円を上回る。「酒は経済的損失をもたらす」というのが政府の見解なのだ。