通常の裁判に比べて短期間ででき、手続きも簡単な労働審判制度。働く人たちにとって利用価値の高いこの制度は、いったいどのようなものなのか――。労働審判の本人申立支援の第一人者である松本健一氏が、その特徴をやさしく教える。
労働者のための制度
「労働審判」の3つの特徴
未払い残業代を取り戻すには、通常の裁判よりも労働審判制度を使ったほうが簡単と第1回で述べましたが、労働審判制度とはどういうものなのか、ここで簡単に解説しておきます。
労働審判制度は、解雇や賃金不払いなど使用者と労働者の間で起こる個別の争いについて、迅速かつ実効性のある解決を図るためにできた制度です。
1人の社員が会社を相手に争った場合、労働問題に強い弁護士を探して依頼しないかぎり、有利に事を運んで実効を得るのは困難です。そうした実情を踏まえて、弱者といえる労働者のために生まれた制度です。
労働審判の特徴としては、次の3点があります。
(1)専門性
労働法や労使紛争について専門的な知識と経験を持つ人が労働審判委員となって審判官(裁判官)と共に審理をするので、専門性が確保されています。
労働審判委員は、使用者団体(具体的には、日本経団連=日本経済団体連合会)と労働者団体(具体的には、連合=日本労働組合総連合会)の両団体が推薦し、最高裁判所が任命します。労働審判では、使用者団体から推薦された委員と労働者団体から推薦された委員が1名ずつ労働審判委員となり、裁判官である労働審判官1名を加え、計3名で審理します。
実際にどういう人が労働審判委員になるのかというと、会社役員、人事部長、労組役員などが多いようです。“ようです”というのは、具体的には公開されていませんし、個々の労働審判においても明らかにはされていないからです。
また、労使双方の団体から推薦された人が1名ずつ労働審判委員に任命されるといっても、審理にあたってはその立場は知らされませんし、各委員もどちらかに偏った発言はしません。あくまでも、専門的な立場から客観的に審理することになっています。