明治時代の実業家・古河市兵衛(1832~1903年)が興した古河財閥の流れを汲む、化学メーカーの日本ゼオン。1950年の創業以来、ニッチな分野で世界初・世界一の製品を世に送り出してきた個性派集団だが、この数年間は休むことなく企業風土の改革に取り組み続けている。なぜ今、企業体質の転換が必要なのか。世界の化学業界において大きな変化が進む中で、将来を見据えた変革の重要性を訴える田中公章社長に胸の内を聞いてみた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
――先の7月7日、天皇陛下が、日本ゼオンの川崎研究所と工場を視察されました。社内でも極秘で進んだ話だったそうですが、当日はどのように進行したのですか。
正しく、青天の霹靂でした。
天皇陛下の企業視察の対象に選ばれたことは、大変光栄なことだと思いました。当日は、日本ゼオン・グループの概略は会長の古河直純から、具体的な技術事例は社長の私からさせていただきました。2時間弱でしたが、あっという間でしたね。
私としては、どのように技術をかみ砕いてご説明申し上げようかと思い悩んでいましたが、陛下のご質問はどれもポイントを突いたものばかりで、会長も私もびっくりしました。光学フィルムの製造試験設備をご覧になられた際には、「あの黒く見えるところが分子ですか?」「隙間(分子がない部分)は何ですか?」などと鋭いご質問をされました。また、合成ゴムの製造工程では、ビーカーを用意して化学反応をご覧にいれましたが、液体の中から雲のような形をした物体が現れた瞬間に、陛下は「あっ」と声を上げられました。「あれは何ですか?」と強い関心を示されたのです。