訪日中国人客の旺盛な消費力の根底にあるものは「ダブルインカム」である。上海出身の女性について言えば、「パートタイム」という非正規労働ではなく、職位をも与えるしっかりとした雇用により、毎月高額の収入を手にしている。

 ちなみに、中規模程度の企業の副総経理クラス(年齢でいえば40歳代前後)ならば、月給2万元(約34万円)は下らない。夫と合算すれば最低でも4万元(約68万円)だ。物価高とはいえ、農産物の安い上海ではあっという間に貯蓄が増え、年に3回の海外旅行も当たり前の生活になる。すなわち、「訪日旅行の爆買いを支えたのは夫婦共働き」だったと言っても過言ではない。

お手伝いさんは稼げる職業に

 中国では、自分の親に子どもの面倒を見させるケースも多いが、「お手伝いさん」の存在もまた夫婦共働きを支え、女性を家事や子育てから解放し、社会に送り出すための大きな力になっている。こうした社会構造が定着した背景には、格差の激しい中国ならではの事情がある。都会でのお手伝いさん職は、農村からの出稼ぎ女性の格好の受け皿でもあった。

 雇用主との契約にもよるが、お手伝いさんたちは「買い物、料理、掃除、子どもの出迎え」と、基本的な家事労働はなんでもこなしてくれる。上海のお手伝いさんの平均月収は5900元(約10万円、上海赶集網)だ。筆者がお手伝いさんを初めて雇用した20年前は月400元程度だったから、約15倍の高騰である。

 当時、お手伝いさんという職業は、中国では「できれば人には知られたくない職業」という一面があった。だが、今や「稼げる職業」にもなり、「優れたお手伝いさんにはいくらでも払う」というように、ニーズはどんどん高まっている。逆に言えば、家事労働の担い手として「お手伝いさん」を雇える富裕な家庭も増えているということだ。

 一方、中国で、お手伝いさんは確かに便利な存在だが、トラブルも枚挙にいとまがない。

「つり銭をごまかされた」「家の中のものがなくなっていた」というのはよくある話だ。自宅の大事な物を壊されたときなどは、涙がチョチョ切れる。彼女たちに弁済を迫っても、その能力はないからだ。最も腐心するのは信頼関係の構築だ。彼女たちを家庭に受け入れるには、雇用する側も「多少のことには目をつむる寛容さ」を覚悟しなければならない。

 日本の国家戦略特区では外国人による家事代行が解禁された。 “なんでも屋”に近い「中国型のお手伝いさん」とは異なり、掃除などの部分的な家事労働を担うという形で進められているようだ。外国人家事労働者受け入れをめぐる問題点はさまざまあるが、分業体制が構築されれば、忙しい日本の女性たちの“解放”がもっと前進するのではないだろうか。

(ジャーナリスト 姫田小夏)