今年は景気の堅調さを受けて株式市場が大変好調ですが、通常は景気の拡大が続くと賃金上昇に弾みがつき、インフレになります。しかし、現状はインフレにならずに「適温」の経済状況が続いています。セオリー通りにいかない背景と、経済状況を知るためにビジネスマンが最低限チェックしておきたい指標を解説します。(三井住友アセットマネジメント 調査部長 渡辺英茂)
インフレにならない謎を解くカギ
「米国の消費者物価指数」
米国株式が連日のように最高値を更新し、日経平均株価も25年来の高値をつけています。
こうした株式市場の好調を支えているのが、世界的な景気回復と低インフレです。
世界経済は、今年に入って多くの国や地域の見通しが上方修正されています。今年10月に発表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しでは、前回7月の見通しと比較して、先進国も新興国も幅広く上方修正されました。
IMFによると、今年と来年の世界の実質GDP成長見通しはそれぞれ前年比3.6%、3.7%のプラスですから、高い成長が見込まれている訳ではありません。しかし、多くの主要国経済が順調に拡大していることから、安定感が高まっています。
通常、景気が回復すればインフレが起きてもおかしくありません。しかし、今は世界的に落ち着いています。特に米国や日本、イギリスなどの先進国では、失業率が低下しており、従来であれば賃金が上昇しインフレ率が高まるはずが、賃金の伸びも緩やかなものにとどまっています。この状況については、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長をして「ミステリーである」と言わしめているほどです。
通常、失業率と賃金やインフレには強い関係性があります。例えば、失業率が下がれば賃金やインフレ率が上昇し、失業率が上がればそれらは下がります。経済の教科書に出てくる「フィリップス曲線」です。
今の米国の失業率は4.1%で、これはITバブルがはじけた直後の2000年12月以来の低水準です。当時の賃金の伸びは前年比で+4%程度、消費者物価コアの伸びは前年比で+2.6%(コアとは価格変動が大きい食品とエネルギーを除いたもの)でした。現在は、失業率がほぼ同じでも、賃金の伸びが2%台半ば、消費者物価コアの伸びが+1.7%とかなり低位ですので、ミステリーと言いたくなる気持ちも分かります。
そこで注目したいのが、来週の11月15日(毎月中旬)に発表される予定の「米国の消費者物価指数」です。