三菱自・益子修CEOが語る「ルノー・日産から買った“17年物の洗練”」Photo by Yoshihisa Wada

三菱自動車は、どのように生き残っていけるか

 自動車業界では今、従来製品の価値とは異なる、しかもこれまでにない価値を生み出そうとする破壊的なイノベーションが始まっている。しかし先頭を走ろうとすればするほど、「見えてくる世界と現実の世界の相克」に戦慄さえ覚えるのだ。

 残念ながら不祥事を起こした三菱自動車だが、それでもなお「三菱のクルマが好きだ」と評価してくださるお客さまがいらっしゃる。「どうしてですか」と聞くと、「頑丈で、耐久性がいい」「四駆の走りがいい」「なんとも言えない武骨さにものづくりの確かさを感じる」などと嬉しい答えを返してくださる。ただ一方で、「三菱は、ハードはいいけど内装や販売など広い意味でのソフトは弱い」という評価もいただく。

 しかし、今は別の意味でのソフト、つまりITという途方もないテーマに挑戦しなければ生き残れなくなろうとしている。

 自動車メーカーは今も、自動運転も含めてクルマが動く、曲がる、止まるという物理的な基本性能のさらなる向上に血眼になっている。一方で、「自動運転しているときにドライバーは何を考えているか」「ドライバーの健康状態と走行判断には、どのような関係があり、それをどのように安全走行のシステムに取り込んでいくか」といった、機械工学とはまったく無縁だったソフト世界がクルマの主要技術の一つとして盛り込まれようとしている。

 いわゆる情報の価値を、物理体としてのクルマと融合させようとする動きだ。それを牽引しているのがグーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンだったりする。

 業界のルールを変えてしまうゲームチェンジャーの登場もある。既存の自動車メーカーは100年をかけて自動車のものづくりとセールス手法を完成させてきた。しかしテスラやダイソンは、IT型の水平展開で部品を集めて、組み立てるだけの新しいビジネスモデルを構築しようとしている。

 彼らは、EV(電気自動車)という環境に優しい技術概念を示し、環境問題に関心の高いユーザーを着実に取り込んでいる。政治政策としても、中国やEUは、EVの供給を義務化するスケジュールを具体的に示している。

 さらに私が非常に不安を感じるのは、「所有概念の希薄化」だ。シェアエコノミーの拡大で所有という概念が弱まり、「クルマはこんなに必要ないよ」という時代が本当に来るのなら、私たちは、どのように生き残っていくべきかを考えなければならない。

 ハードが中心だった既存の自動車メーカーは、こうした動きになんとか折り合いを付けようとし、そのスピード感が生き残りを左右するようにも見えるが、それでもなお破壊的なイノベーターの動きは速く、彼らとの共存に多くの力を削がれるような事態にもなっている。

 最近の経済紙に「EVは本当に良いのか悪いのか」といった趣旨の記事が掲載されていたが、構造的なうねりはすでに、そんな疑問を超えたところにある。

 良いか悪いかは本末転倒な話であり、「EV化が良いとする社会を、本当に創ろうと思っているのかどうか」という、いわば思想的な戦いをメーカー自身が準備しなければならないのが破壊的イノベーションの時代への対応だ。

 では、三菱自動車はどうか。