「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのか

 過剰な自己主張、テクニック偏重、いきすぎた結果主義など、極端な人はどこにでもいるものだ。このような例を挙げて、長所を強化することでリーダーシップ効果を高めるというアイデアに反論する人が少なくない。我々の調査では、どのレベルになるとそのようなバランスが重要になるのかも示している。

 データを見ると、際立った長所を4つ持っている人と5つ持っている人とでは、リーダーシップ効果の差は2パーセンタイルしかない。このように「優」の域に達しているリーダーは、せいぜいあと1つ増やすことを考えればよい。

 図表1で色分けしているように、16種類のコンピテンシーは、5つのカテゴリー、すなわち「性格」「個人的な能力」「成果を上げる」「対人関係スキル」「変革を主導する」に、大別できる。

 さまざまな長所を備えている人は、これらのカテゴリーにわたってどのように分布しているのかを把握したうえで、長所が少ないカテゴリーについて集中的に改善を図るべきである。

 しかし、長所を弱点としてとらえることほど、リーダーシップ効果を高めるうえで非生産的な考えはない。「誠実すぎる」という人に出会ったことがあるだろうか。コミュニケーションがうますぎる人、人を鼓舞しすぎる人などは、どうだろう。

 コンピテンシー・コンパニオンを正しく育成するためには、単にこれまでと同じ努力を重ねるよりも、コンピテンシー・コンパニオンの効果を高めるように、これまでの働き方と対話のやり方を変えることに努めたほうが賢明である。

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 「長所に集中する」という考え方は、けっして目新しいものではない。ピーター・F・ドラッカーは、1966年に著した『経営者の条件(注)』のなかで、その効果と意義について説得力あふれる主張を展開している。

 「ビジネス・リーダーたちが、おのれの長所を探し、それを実りあるものにする努力をなおざりにすれば、できないこと、欠点や弱点、業績や効果を阻害するものを助長するだけである。適材ではない人を配置して、弱点の克服に取り組ませる。これが嫌がらせでなければ、人的資源の無駄づかいである」

 このドラッカーの主張は、一連の取り組みのおかげで、いまなお支持・擁護されている。我々の調査でも、いくつかの長所を伸ばすことで大きな違いが生まれてくることが明らかになっている。しかし悲しいかな、計画的に取り組んでいる人となると、調査に協力してくれたビジネス・リーダーの10%に満たない。

 問題は、説得することではなく実践させることなのは間違いない。ビジネス・リーダーたちは、弱点を矯正するのと同じく、長所を強化するための具体的な道筋を必要としている。

 その際、クロス・トレーニングこそ最も有効であると考えられる。そして線形能力開発を理解したうえで、このテクニックを利用すれば、いままでとは次元の異なる成果を生み出せる。

 経営者は「社内に優秀なリーダーが不足している」とよく愚痴をこぼす。我々は、「実は、優秀なだけのリーダーはたくさんいます」と反論するだろう。やるべきことは、無能なリーダーを優秀なリーダーに置き替えることではなく、トムのように、勤勉かつ有能で仕事をそれなりにきちんとこなせるビジネス・リーダーたちを、際立った長所を備えたエクセレント・リーダーに変身させることなのである。

【注】
Peter F. Drucker, The Effective Executive, Harpercollins Pub-lisher, 1966. 邦訳は1966年、ダイヤモンド社より。1995年に新訳が出ている。