「相互作用効果」を働かせる

 2つの活動を組み合わせるクロス・トレーニングで得られる改善――これを「相互作用効果」(interaction effect)と呼ぶ――は、どちらか1つの活動だけの場合よりも大きい。

 ここに秘密のようなものはない。たとえば、昔から知られていることだが、減量するために食事療法と運動を組み合わせると、どちらか一方の場合よりも高い効果が得られる。

 我々が以前調査した結果では、他者との違いを際立たせるリーダーシップ・コンピテンシーは16種類があり、これらは、利益率、従業員のやる気、売上高、顧客満足の向上などビジネス上の成果と強い相関性があることがわかった。

 そこで、これら16種類のコンピテンシーにおいて、相互作用効果の高い組み合わせを見つけられないものかと考え、現役リーダー約3万人の360度評価データ25万件を対象に、リーダーシップ効果全般において、単独の場合よりもはるかに高い得点を生み出す組み合わせがあるか、調べてみた。その結果は一目瞭然であった。

 たとえば、「結果を重視する」と「人間関係を築く」というコンピテンシーについて見てみよう。前者はかなり得意だが(つまり75パーセンタイル以上)、後者はそれほどではないリーダーの場合、優れたリーダーシップ水準、すなわちリーダーシップ効果全般で90パーセンタイルの域に入っている人はわずか14%だった。かたや、後者は得意だが、前者はそうでもない人たちを見ると、その割合は12%足らずだった。

 ところが、両方のコンピテンシーの成績が高い場合、驚くべきことが見られた。両方とも75パーセンタイル以上の人の72%が、何とリーダーシップ効果全般で90パーセンタイルに達していたのである。

 我々は、16種類のコンピテンシーの考えられる組み合わせすべてについて、リーダーシップ効果全般との相関度を調べ、どのような組み合わせが最も有力なのかを明らかにした。また、これら16種類のコンピテンシーを他のリーダーシップ・スキルと組み合わせ、それらがリーダーシップ効果全般とどのように関係するのかについても調査した。

図表1「リーダーシップ・コンピテンシーを補強するスキル」
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 その結果、これらのコンピテンシーそれぞれに、我々が「コンピテンシー・コンパニオン」と呼ぶ補完的行動が10数種類存在することが、明らかになった。これらの補完的行動は、先の各コンピテンシーと結びつくと、リーダーシップの優秀性との相関性がさらに高くなる(図表1「リーダーシップ・コンピテンシーを補強するスキル」【1】【2】【3】【4】【5】)。

 ここで、大事なコンピテンシーの1つ「正直で誠実である」について考えてみよう。では、どのように強化すればよいだろう。もっと正直になればよいのか(嫌というほど、よく聞く答えである)。取り立てて有益なアドバイスとは思えない。

 このコンピテンシーが低いビジネス・リーダーには、さまざまな改善方法がある。たとえば、言動の一貫性をより高める、言行不一致を改める、有言実行するなどである。誠実なリーダーならば、もうすでにやっていることだろう。

 我々が実施したコンピテンシー・コンパニオンに関する調査は、1つの現実的な進路を示唆している。たとえば、「相手を尊重して自己主張する」という行動が「正直で誠実である」というコンピテンシーと組み合わさると、きわめて高い水準のリーダーシップ効果を生み出す。

 だからと言って、両者に因果関係があるわけではない。つまり、「相手を尊重して自己主張」すれば正直になれるわけではなく、また誠実であれば自己主張できるようになるわけでもないのだ。

 それはさておき、信念の固い人が「相手を尊重して自己主張する」術に長けると、はっきりと主張するようになり、揺るぎない勇気をもって行動し、こうして自分の長所をより広くより頻繁に発揮するようになり、これまで以上の影響力を持ったリーダーになれる。

 我々のデータによれば、コンピテンシー・コンパニオンによってリーダーシップ関連の長所を強化する方法はほかにもある。専門性の高いリーダーがコミュニケーション能力を向上させる場合、その長所はより際立ったものになろう。

 あるいは、コンピテンシー・コンパニオンを開発するなかで習得したスキルが重要なリーダーシップ・コンピテンシーと組み合わさると、著しい効果が生まれてくる可能性がある。たとえば「革新的である」というコンピテンシーが高いリーダーの場合、「変革を後押しする」術を学習すれば、チームの士気を高め、これまでにない創造的な手法によって結果を出せるかもしれない。