怒る妻を見ながらEさんもできることなら禁煙したいと思い、禁煙製品をいろいろ試したが無理だった。そしてEさんはタバコを吸わない自分というのがどうしてもイメージできなかった。タバコをやめて太った同僚を何人も見てきた。メタボよりもタバコのほうがマシと思えてしまうのだった。

子どもの咳が長引いて、
「咳喘息」と診断される

 子どもは、保育園でよくいろんな病気をもらってくる。昨年は、新型インフルエンザにかかり、息子たちが次々に寝込んでしまった。インフルエンザワクチンを打っていても40度近い熱が出るので、妻はしばらくつきっきりだった。

 兄弟が多いとそれだけ感染の確率も高い。昨秋は、一番上の息子の学校で流行った風邪に兄弟全員が感染した。しかし、末っ子は熱が下がったあとも咳が止まらなかった。夜中に咳で苦しそうにしていることもあるので、近所の呼吸器科内科に連れていった。いつもの風邪だと思っていたのに、医師から驚きの言葉が発せられた。

「お子さんは風邪のあと起こりやすくなる咳喘息の疑いがあります。タバコの煙、大気汚染、ホコリやダニなどのハウスダストも関連しているとも言われています。どなたかご家族で喫煙されている方はいますか?まずはご家族が禁煙してください」

 その日、Eさんは大いに反省して、禁煙を決意した。息子が元気になるためにも禁煙を成功させたいと思った。しかし、1週間続いた禁煙は、同僚と麻雀を久しぶりにやった夜にあっさりと破られてしまった。禁煙に失敗したことは、妻にも言えずEさんは駅の外に置いてある灰皿の前や、タバコの吸えるカフェで1人寂しく吸い続けていた。

同僚が起こした事件がきっかけで
就業中全面禁煙に

 Eさんの会社は中堅のゼネコンだ。工事現場では、離れたところに必ず喫煙所が設けられる。しかし先月、事件が起こった。工事の進捗を見に来た施工主が、現場がタバコ臭いと言い出したのだ。「うちの会社では、禁煙をスタッフに言い渡しているのに、事務所が入居前にタバコ臭いのはありえない。すぐに調べて改善してほしい。そうでなければ業者は変える」

 Eさんも含め、社員と取引業者全員の事情聴取がはじまった。調査後、休憩時間に、現場内で吸った担当者がいたことがわかった。そして会社として、就業中、全面禁煙が通達された。

 今でもランチタイムに外の店で吸っている社員はいると思う。でもEさんは会社の近くでは吸わないようにした。見られている気がして落ち着かないのだ。タバコをやめたら「仕事に集中できるようになった」「仕事の効率があがった」という同僚もいる。会社でも家でも吸いにくい環境になってしまった。Eさんは、雑誌で見た「喫煙はニコチン依存という病気かもしれません」という言葉を思い出した。息子の笑顔が咳で歪まないように、仕事場で誰かに見られないうちに何とか禁煙をしたいと思っていた。