マーケティングとは何か

 レジスは、アップルの立ち上げに必要な資金の調達も支援した。当時はまだ「ベンチャーキャピタル(VC)」が確立していない時代である。最初の資金調達のために、彼の知り合いのドン・バレンタイン(後の米セコイア・キャピタル創業者)に頼み、投資家を紹介してもらった。「エンジェル投資」の元祖といえよう。

 また、メディアはシリコンバレーのスタートアップなどどこも相手にしていなかった。だが、レジスは、メディア対応はPRの要だとしてメディアとの交流に努力を惜しまなかった。

 パソコンを販売するチャネルもなかったので、流通も開拓した。77年の時点で、レジスのプランの中に「アップルストア」が入っていたのは驚くべきことだ。

 日本では、マーケティングを「広告宣伝」「販売」「営業」ぐらいに捉えている人が多い。だが、レジスは、「製品のユーザー価値」「製品戦略」「マーケットイン」「資金調達」「メディアの啓蒙」「チャネル戦略」など製品以外の「全て」を包含するものだと説いた。

 ジョブズ亡き後にアップルの経営を引き継いだティム・クックは流通経験が長い。「地味なクックではアップルを引っ張れない」とやゆする人も多かったが、レジスはこう語っていた。

 「必要なときに顧客の前に製品があること。流通も重要なマーケティングなのだ。私は、クックはいい仕事をしてくれると思う」と。

 時価総額が100兆円を超えたアップルを見れば、この見立てに間違いはなかったことが分かるだろう。

 それだけではない。レジスは、90年代から、ソーシャルネットワークとスマートフォンが市場原理を完全に変えてしまうことを見抜いていた。

 インターネットの商用化により、企業と顧客の関係が劇的に変わった。レジスは、それを「リアルタイム」と「双方向」というキーワードで説明し、ネット社会でのソーシャルマーケティングの重要性を説いた。

 革新的な製品は、市場の「インフルエンサー」(影響力のある人)からの口コミで広がることを示し、それを系統的に進める戦略である「マーケットインフラストラクチャー」の考えを提唱したのもまた、レジスである。

 「アーリーアダプター」と呼ばれる先進的な利用者と「マジョリティー」と呼ばれる市場の中心的な利用者の間には、「死の谷」が存在する。そう説いたベストセラー、『キャズム』の著者ジェフリー・ムーアは、実はレジスの門下生であった。なぜレジスには「未来」が見えていたのだろうか。