第5の原則 イノベーション

 金儲けよりも大きな目的を掲げることで、戦略や行動の指針が得られ、オープン・ソース・イノベーションが実現し、社員たちは日常業務のなかで自社や個人の価値観を体現できる。

 企業が「社会に貢献している」と主張しても、リーダーが目先の利益を求めることなく、時間や人材、経営資源を国家や地域社会のプロジェクトに配分し、ある国の人々が別の国に貢献するように後押しする時、初めて信用される。

 たとえばIBMのグローバル社会貢献プログラム「コーポレート・サービス・コー」は、優秀な社員たちでチームをつくり、新興国のプロジェクトに1カ月間派遣することで、将来のリーダーを育成している。

 社会ニーズに目を向けると、イノベーションにつながるアイデアが生まれてくることが多い。メキシコのセメント会社、セメックスの場合、制度の論理で経営し、満たされていない社会ニーズを検討することで、さまざまなイノベーションを生み出している。

 たとえば、抗菌コンクリートは、病院や農場になくてはならない。耐水コンクリートは、洪水が起きやすい地域で役に立つ。古タイヤからつくる路面材は、道路の敷設を急ぐ国で便利である。エジプトから出された耐海水コンクリート(港湾や海洋関連の用途に有効)のアイデアは製品化され、フィリピンで発売されている。

 制度の論理をつくり上げることで、ビジネス生態系全体のパートナーを結びつけ、ビジネスモデルにイノベーションを起こす。セメックスは、ホーム・デポやロウズの中南米進出を受けて、2001年に中小金物店向け物流プログラム「コンストルラマ」を開始した。このプログラムによって中小金物店は、研修やサポート、パワー・ブランドを利用できるだけでなく、製品の入手もスムーズになる。

 セメックスはその価値観に従い、地元での信頼が厚い販売店を探すに当たり、同社の倫理基準に外れた事業戦術を行うところは排除した。またセメックスは、コンストルラマ・ブランドがあり、宣伝や販促活動を担当するが、販売店に手数料を課したり、直営店を持ったり、決定権を行使したりすることはない。

 ただし、各販売店はセメックスのサービス基準を満たさなければならない。その1つに、児童養護施設の拡充や学校の改善など、コミュニティづくりの一環として慈善活動に参加することが挙げられる。2000年代半ば、コンストルラマによって大手小売チェーンに匹敵する店舗数を中南米で確保し、これを他の途上国にも展開した。

 個人が会社の経営資源を使って社会に貢献する機会を用意することで、制度の論理づくりという目標にさらに近づいていく。

 ノバルティスの社員たちは、病院の仕事を手伝うなかで、病気との闘いを目の当たりにし、自社の薬がどのように使われているのかを知る。2011年、P&Gの社員たちは「タイド・ロード・オブ・ホープ」号というバンで、洪水被害に遭ったアメリカ南部各地を回った。マネジャーとその他専門家は、移動式洗濯機で被災者の衣服を洗濯し、これを届けるなかで、被災者やこれらの人たちが置かれた状況を知る。このような交流は、企業の価値観を伝えると同時に、貴重な学習機会となる。