第6の原則 自己組織化
グレート・カンパニーは、社員を信頼し、規則や仕組みだけでなく、人間関係にも頼ることを前提に置いている。また彼ら彼女らを、自己組織化や新たなアイデアのひらめきによって、みずからの判断の下、さまざまな活動を調整・統合するプロフェッショナルとして扱う。
制度の論理から考えれば、社員たちは、最低限のことしかやらない、給料だけが目当ての怠け者でもなければ、ハイ・パフォーマンスの命令を実行するロボットでもない。むしろ、どのアイデアを採用するか、それにどれくらい力を注ぐか、日々の仕事以外に貢献できることは何かについて、みずから選択する。したがって、経営資源の配分は、会社が決めた戦略や予算プロセスだけでなく、人間関係、自発的な行動、各階層の社員の好き嫌いも関係してくる。
企業を十分理解するには、その社会構造や人間関係を知る必要があり、またパフォーマンスを最適化するには、社会投資が必要である。
新韓銀行と朝興銀行は、3年後の正式な統合を待つことなく、社会的な絆と人間関係を通じて自発的に統合した。この新しいつながりは、だれかに言われたわけでもなく、それぞれの本店に相手方の横断幕を掲げるといった形で表れた。
P&Gでは、ブラジル法人のマネジャーたちが、戦略や組織にまつわる慣習を覆し、プレミアム製品に代わる低コストで高品質の製品を開発した。彼らはこのハイ・リスクのプロジェクトをみずからの判断で進め、部門を超えたチームワークや顧客とのパートナーシップをみずからつくり出した。そこには、「我々には、プレミアム製品を買えない消費者の暮らしを向上させる義務がある」という思いがあった。
同じく制度の論理の下、P&Gのグローバルなクロス・ファンクショナル・グループ「チーム・ヒマラヤ」は、使い古しの刃や錆びた刃を使う床屋のせいで傷をつくっている男性向けに、ジレットのかみそりの価格と品質を改善する方法を考え出した。
グレート・カンパニーのマネジャーたちは、組織図に書かれている組織はあまりに一般的で堅苦しいため、資源やアイデアが自由に流通することを妨げる可能性があることを承知している。硬直化はイノベーションを阻害する。一方、非公式で自己組織的、融通無碍で一時的な人的ネットワークのほうが柔軟で、関係づくりや経営資源の組み合わせもスムーズである。
社員の職務規定上の役割は、彼ら彼女らが日常の仕事やプロジェクトであちこちを動き回ったり、業務上の関係を築いたり、チームやグループの活動に参加したりするための基点になっていく。
マトリックス組織──担当する地域や製品分野など、業務のさまざまな側面に応じて、各人が複数の上司を持つ──が、私の言うところの確固たる「土台(マトリックス)」である。したがって、社員は複数のアカウンタビリティ(結果への説明責任)を負い、複数のプロジェクトに関わり、これらのプロジェクトのために人的ネットワークを駆使して経営資源を集める。その際、多くの場合、意思決定の階層を飛び越えなければならない。
たいていの仕事は退屈で、人を拘束する部分がある。セメックスの社員の多くは工場で働いており、新韓銀行では窓口業務であり、どのような企業もデスク・ワークのサポート・スタッフを抱えている。そこで、社員を信じて、いつ、どこで、だれと働くべきかを選ばせてやれば、仕事はもっとおもしろくなる。