制度の論理に忠実な企業では、経営陣が政府関係者と関係を築くのは、何らかの見返りを得るためでもなければ、特定の取引をゴリ押しするためでもない。彼らは、公共の課題に影響を及ぼす立場にあると同時に、その課題を理解し貢献するための方法を探す。
たとえば、WHO(世界保健機関)出身のペプシコのチーフ・グローバル・ヘルス・オフィサーは、子どもの肥満を減らすための部門横断プロジェクトを計画中である。
また、IBMの会長兼CEOであるサミュエル・パルミサーノは、年に地球を6~7周して各国各地域の政府関係者と会い、彼らの目標を達成するためにIBMは何ができるのかについて話し合う。これは、営業やマーケティングではない。IBMには事業所を置いている国々のさらなる発展に貢献する意欲があることを示すための高次元の対話である。このようにトップ・マネジメントが関わることで、その国の未来についての話し合いが始まった時、IBMの他のリーダーは交渉の席に招かれやすくなる。
制度の論理をつくり上げるには、多くの人たちの努力が必要である。外部との関係に関心があればあるほど、トップ・マネジメントは、他の人々を巻き込み、国や地域社会との関係づくりの努力に報いる傾向がある。
こうした渉外業務を正式に担当する人は比較的少ないかもしれないが、ボランティア活動や市民集会への出席、社会奉仕への参加を通じて組織の営みに関わる人はかなり多いのではないか。こうした活動によって芽生える動機こそ本物である。
コミュニティづくりは、その地域の出身者や長く住んでいる人にすれば難しいことではない。地域には「求心力」となる場所があり、そのおかげで、このような取り組みも有意義なものになる。また、転勤を繰り返してきた人にすれば、コミュニティづくりは組織内での役割といま住んでいる場所を結びつける手段であり、その地域への帰属意識も高まる。
ビジネス・リーダーが自分は社会目的の持ち主であると思えば、地域や国、あるいは世界のレベルでこの目的の実現に関与することも可能である。
数年前、IBMグレーター・チャイナ・グループの会長は、個人的な外交使節団を組成してワシントンを訪れ、「経済大国として中国が台頭すると、どのような影響が生じるか」について、ホワイトハウスの関係者や政治家たちと話し合った。彼は、両国の繁栄を願うとともに、グローバル企業ならではの視点を提供することが自分の役割だと考えたのである。
彼は2009年に退職したが、IBMの「スーパー卒業生」として、同社の支援の下、アメリカの有名大学に1年間通い、医療について学んだ。2010年末、中国へ戻り、同国の政府機関と一緒に、IBMの力を借りながら、中医学のEBM(臨床結果に基づいた医療)をITによって実現するというプロジェクトを立ち上げた。