第2の原則 長期的視点

 企業を社会機関と考えることで、企業目的を達成し、長きにわたって存続するには、財務面での短期的犠牲もやむなしとする長期的視点が得られる。

 企業が存続するには経営資源が必要である以上、財務の論理に従えば、数字が重視される。しかしグレート・カンパニーは、財務上の短期的チャンスと組織の価値観が両立しない場合には、損失を出すこともいとわない。そのような価値観は、品質、顧客の特性、製造プロセスの廃棄物など、コーポレート・アイデンティティや評判にとって重要な問題の指針となる。

 たとえばバンコ・レアルは、潜在顧客たちの社会的基準や財務状況を評価するスクリーニング・プロセスを開発した。環境責任や社会責任に関する基準を満たさない者はあえて排除した。これは、短期的には損失となるが、より長期を見据えた慎重なリスク・マネジメントといえた。

 制度の論理を用いる企業は、えてして組織の人間的側面への投資に積極的である。この投資は、財務上すぐさま報われるわけではないが、持続可能な組織づくりに貢献する。

 90年代後半のアジア金融危機の後、韓国の新韓(シンハン)銀行は、政府によって救済された大手老舗銀行、朝興(チョフン)銀行の買収に乗り出した。2003年、買収が発表されると、幹部層も含め朝興銀行労組の男性行員3500人が抗議の意味で頭を坊主刈りにし、切った髪の毛をソウル中心街の新韓銀行本店前に積み上げた。新韓銀行は、買収を進めるのか、もし進めるならば朝興銀行の行員たちをどうするのか、はっきりさせなければならなくなった。

 新韓銀行の経営陣は、制度の論理を利用した。朝興銀行労組と協議のうえ、正式な統合を3年間延期し、新しい経営委員会で両行の経営陣に対等な代表権を与え、朝興の給与を新韓並みの水準まで引き上げた。また、坊主刈りにした男性行員用に3500人分の帽子を手配した。

 新韓銀行は、いわゆる「感情的統合」に多額の投資を行ったといえる。戦略や業務に関わる情報を共有するだけでなく、社会的連帯や「我々は『1つの銀行(ワン・バンク)』である」という意識を高めるために、会議や合宿を開いた。財務の論理に従えば、買収側の新韓銀行はお金を無駄使いしたことになる。しかし、制度の論理から見れば、その投資は未来を築くうえで不可欠なものであった。

 その結果はと言うと、1年半も経たないうちに、新韓銀行は両行の顧客基盤を拡大させ、朝興銀行労組はこの穏健な買収者への反発を煽ろうにも、うまくいかなかった。正式な合併はまだ1年半先だったが、新韓と朝興の行員は共同でタスクフォースに取り組み、ベスト・プラクティスについて話し合い、アイデアが広がり、それが両行の支店に統一感を与え始めた。要するに、行員たちは「自己組織化」を起こしたのである。3年目、ついに正式に統合したが、新韓銀行は銀行業界だけでなく、韓国の株式市場も上回る業績をたたき出した。