事実、社名が変わろうとも、アイデンティティと目的は生き続ける。2007年、スペインのグルッポ・サンタンデールはブラジルのバンコ・レアルを買収し、自社のブラジル資産に組み込んだ。しかし、バンコ・レアルの精神には金融資産以上の価値があった。

 当時のCEO、ファビオ・バルボサは、企業統合後の組織サンタンデール・ブラジルの立ち上げを任された。この新組織は、支店の収益性を改善しなければならなかったが、彼のリーダーシップの下、バンコ・レアルはまず、社会的責任や環境責任を重視した。その姿勢は、同行のプライベート・バンキング・モデルと合わせて、サンタンデール・ブラジルと親会社の隅々に浸透した。

 成功したM&Aを見ると、価値観や文化を重視しており、これは注目に値する。1996年、スイスの2つの製薬会社(チバガイギーとサンド)が合併してノバルティスが誕生した時、最初のCEOダニエル・バセラ(現会長)は、新会社のミッションを、グローバルな意味があり、かつ統合・成長戦略の要にしたいと考えた。問題は、これらの価値観を反映した具体的な経験を、どのように社員たちに与えるかであった。

 当時のヨーロッパにはなかった「社会奉仕の日」を世界各国に導入してはどうかと私が提案したところ、ノバルティスはこれに賛同してくれた。そして各国の現地法人には、それぞれ「2つの歴史、1つの未来」の意味を独自に解釈したうえで、どのように地域社会に貢献するかを考えさせた。この「ノバルティス・コミュニティ・パートナーシップ・デー」は、ノバルティスの行事として定着し、合併記念日に毎年開催されている。

 グレート・カンパニーはそのアイデンティティを表現する際、必ずと言ってよいほど、貢献活動などを通じて目的や価値観を確認する。

 2011年6月、IBMは創業100周年に合わせて、全世界で社会貢献活動を実施した。この日、30万人を超えるIBM社員たちが延べ260万時間を費やし、学校、政府機関やNGO(非政府組織)に研修サービスやソフトウエアへのアクセス(その多くがこの日のために開発されたものである)を提供した。

 ドイツの100の学校では、プライバシーやいじめ対策の教育研修を実施したほか、インドでは、目の不自由な人のために新しいウェブサイトを開発し、50カ所でそのお披露目をした。アメリカでは、女性起業家のために小企業向けサービスを提供した。また、IBMが社会貢献を重視していることを示すため、これらのツールは、たとえ販売予定の試作品でも、無償で提供された。