第1の原則 共通の目的
企業を社会機関と見なすことで、コーポレート・アイデンティティに一貫性が生まれ、不確実性や変化を緩和できる。
企業の成長、あるいは買収や売却に伴い、事業ミックスは頻繁に変化し、多くの場合、国によって仕事の役割も変わる。
一貫性のあるコーポレート・アイデンティティをもたらすものは何か。不確実性の高い世界にあって人々が行動を起こすための拠り所となる確実性はどこにあるのか。製品ではなく、目的と価値観こそ、組織のアイデンティティの軸であり、社会に資する新製品を見出すための指針でもある。
インドのマヒンドラ・グループを例に取ろう。同グループは、売上高110億ドル、ムンバイに本社を置き、約100カ国で社員11万7000人を抱えるコングロマリットである(本稿執筆時)。
新興国企業の多くがそうであるように、マヒンドラも、自動車、金融、ITなど、さまざまな業界で事業展開している。またグレート・カンパニーと同じく、共通の目的に基づいて企業文化を創造することに投資し、多様性と一貫性を両立させ、みずからを「人々の進歩を可能にせしめるという共通の目的に基づく集合体」と称する。
グローバル化によって、企業は特定の社会から切り離される一方で、さまざまな社会ニーズを取り込むことが求められる。この複雑な問題を解決するには、組織の価値観を明確化することがその一助となろう。
たとえばペプシコは、持続可能性に向けた企業スローガン「パフォーマンス・ウイズ・パーパス」(目的を伴う成果)を実践するうえで、健康を重点分野の1つとしている。そして、栄養、環境責任、勤続が、このスローガンを支える柱である。
パフォーマンス・ウイズ・パーパスによって、各国のさまざまな事業に戦略的方向性が与えられ、その動機がはっきりする。そのためには、ペプシコが言うところの「あなたに楽しい」ことから「あなたによい」こと、そして「あなたによりよい」ことへ経営資源を徐々にシフトする必要がある。
これが、買収や投資の根拠となり、また「グローバル・ニュートリション・グループ」や「チーフ・グローバル・ヘルス・オフィサー」を新設した理由であり、飲食品の糖質やナトリウムを削減・除去する取り組みの指針でもある。そして何より、全世界のペプシコで働く社員たちにアイデンティティを与える。
リーダーは、制度の論理を基盤とすることで、事業における不確実性を減らすことができる。グレート・カンパニーは、目的や意義を具体化するために、取引や事業ポートフォリオよりも有益なものを見極める。意味を明らかにすることはリーダーの中心的役割であり、目的は組織に一貫性をもたらす。
制度の論理を基盤とするには、新しい組織文化をつくり、これを強化する取り組みが欠かせないが、それだけでは足りない。組織文化は、過去の産物であり、また歴史の必然的帰結であることが多い。
また制度の論理を基盤とすることは、自社の活動や関係に投資することでもある。それは、すぐさま業績には直結しないだろうが、さまざまな活動や関係には自社の価値観や今後の方向性が反映されることになる。
制度の論理を基盤とすることで、生き残る企業とグローバルな変化に飲み込まれてしまう企業を区別できる。目的意識によって、組織に意味が与えられ、その企業は社会の一部として受け入れられ、過去と未来の連続性を確立できる。