八甲田山の悲劇に学ぶ、楽観的すぎるリーダーの害

新著『図解 なぜかミスをしない人の思考法』を出版した失敗学の権威、中尾政之東大大学院教授が、同書の中から、失敗の予防法を“科学的”視点から指南する。今回は、根拠のない楽観視がいかに危険かについて。あの八甲田山の行軍遭難事件などを例に、リーダーが取ってはいけない行動について学ぶ。

リーダーの甘さが招いた
八甲田山遭難事件の教訓

 生産性が感じられない会議と同様に、失敗のリカバリーショットについて議して決せず、決して行わずという会社も少なくない。こうなる理由は、

「もう少し様子を見よう」

「そのうち状況が(いいほうに)変わるかもしれない」

 という淡い期待が持ち上がってくるからである。もちろん、こんなものは宝くじで3億円を当てるよりも確率は低いに決まっている。これが失敗学における「楽観視の法則」である。しかし、他力本願で仕事をされては困る。

 希望的観測が高じると、いったいどんな悲劇が待っているのだろうか。

 1902年1月23日、旧青森歩兵第五連隊第二大隊が青森市を出発、三本木(現十和田市)に向かう途中に大事故が起きた。世界の山岳遭難史の中でも類を見ないほどの悲惨な事故だった。この大事故は軍事訓練だったので当時、事実は伏せられていたが、後年、映画になって広く知れわたることになる。すなわち、「八甲田山・死の彷徨」である(本当は八甲田山という山はなく、連峰を総称する呼び方である)。

 雪中行軍を決行した狙いは、目前に迫りつつあった日露戦争対策である。陸軍による寒冷地戦の研究(シミュレーション)の一環として展開された。

 第八師団青森歩兵第五連隊(隊長神成文吉大尉)と、弘前第三十一連隊(隊長福島泰蔵大尉)が選ばれ、冬の八甲田を互いに反対側から登るのだが、折しも記録的な寒波とすさまじい吹雪に遭遇する。