営業の達人と呼ばれる人たちは、「ノウハウ」よりも「ノウフー」、つまり「だれを知っているか」を重視する。しかし、この課題に戦略的に取り組み、管理し、組織的に活用しているかというと、かなり怪しい。一口に人脈と言っても、その種類は異なり、大きくは「業界ネットワーク」「見込み客ネットワーク」「顧客ネットワーク」「社内人脈」の4つに分類できる。これら4つの人脈を状況に応じて使い分けることで、営業活動の効率性が高まり、ひいては業績を向上できる。本稿では、組織的に人脈力を高める方法について解説する。
「人脈」が営業の成敗を分ける
営業に携わる者ならば、だれでも人脈が何よりも重要だと言うだろう。実際、人脈が豊富な人ほど、たくさんの見込み客を見つけたり、情報を収集したりできる。そして、最終的には売上げに跳ね返ってくる。
Tuba Ustuner
ロンドンにあるカス・ビジネススクールで講師を務める。マーケティングを担当。
デイビッド・ゴーズ
David Godes
ハーバード・ビジネススクールの助教授。営業管理とソーシャル・ネットワーク分析が専門。
このような考え方は、けっして間違ってはいないが、いささか単純な見方である。人脈という資産を一面的にとらえてはならない。人脈にもさまざまな種類があり、その影響力も異なる。ひるがえって、人脈の微妙な違いを理解する能力を磨けば、ライバルに差をつけることができる。
営業プロセスは、案件によってはかなりの時間を要する。くわえて、プロセスの各段階では求められる能力が異なるため、営業担当者が果たすべき役割も変わってくる。たとえば、見込み客を開拓するスキルは、契約をまとめるうえでまったく役に立たない。
さらに、各段階で必要な人脈も変わってくるため、営業担当者は異なる人脈を構築し、活用することが求められる。たとえば、見込み客を集めるための人脈と、顧客の購買意思決定にアドバイスを提供してくれる専門家の人脈にはほとんど共通点がない。にもかかわらず、自分の人脈の効果的に管理する術を心得ている営業マネジャーはほとんどいない。営業担当者に至ってはさらに少ない。
営業関連の人脈をより理解するには、まず営業プロセスを四段階に分けるとよい。すなわち、「見込み客の特定」「見込み客の購買の喚起」「ソリューションの開発」、そして「クロージング」である。
第1段階での成功は、社外や市場全体から、ビジネスチャンスに関する正確な情報をタイムリーに得られるかどうかにかかっている。それが競争相手の知らない情報であれば、なおさらである。
第二段階では、見込み客について的確な情報を把握し、意思決定者と面会する機会を確保し、購買について検討してもらう努力を傾ける。それには、本当の意思決定者はだれか、影響力の大きい人物はだれかなど、見込み客の実態についてあぶり出す必要がある。これらの問いの答えは見込み客の内部にあるので、目的を達成するには相手先のキー・パーソンとの接触が欠かせない。
第三段階では、見込み客のニーズに応えたソリューションを提示するが、まず営業担当者だけではできない。ここでの成功のカギは、ソリューション開発の適任者や必要な資源が社内のどこにあるのかを見極める能力である。また、これらの人材や資源を動員し、ソリューションを開発する能力も成功を左右する。
最終段階、すなわちクロージングでは、顧客の不安をできる限り取り除くことが営業の仕事となる。顧客はさまざまなことに懸念を抱いている。たとえば、本当に最適なソリューションなのだろうか。約束どおりのソリューションを提供してくれるだろうか。少なくとも今後2年間、この企業はつぶれたりしないだろうか。不具合が生じた時、営業担当者はきちんと対応してくれるだろうか等々――。顧客は、このような不安に真摯に向き合ってくれる「別の営業担当者」と話してみたいと思うことだろう。
以上のように、クロージングまでこぎ着けるには、営業担当者はさまざまな人脈を駆使しなければならない。
各段階における営業担当者の仕事は、本質的かつ補完的な二種類の人脈を管理することに集約できる。すなわち、情報の流れを管理することと、人脈の接点となる人たちの活動を調整することである。段階によって、一方の必要性が他方を上回る。実際、情報管理の必要性が高い段階では、調整の必要性は低く、その逆もまたしかりである(図1「人脈を使い分ける」を参照)。
営業担当者は、電話営業から、アドバイス、製品知識まで、複数の能力を身につける必要があるが、まだ足りない。本当に成功を収めたいのであれば、人脈力が不可欠である。すなわち、顧客にしかるべき価値を提供するには、正しい情報にアクセスし、それを適切な人たちに伝える能力、さらに、さまざまなグループの努力を統合する力が必要なのだ。
あなたが営業マネジャーならば、自分の部下たちが有益な人脈を構築・維持できるよう、支援の手を差し伸べなければならない。本稿では、営業プロセスの段階ごとに異なる人脈を体系的に管理するためのフレームワークを紹介する。
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大場由美子/訳
(HBR 2006年7-8月号より、DHBR 2006年10月号より)
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