「要・適・快」で断捨離したら
家庭内に好循環が起こった

バブル時代に青春を送った美登利さん(仮名)の夫は、洋服も茶色と黒で迷えば「どっちも使い道あるから2つ買えば?」「迷ってるうちになくなっちゃうよ。2つとも買ったら?」が口癖でした。

一方、バブル崩壊後に青春を送った美登利さんにとっては、それは悪魔の囁き。

違和感を覚えつつも「好きな人の言うことだから」と「迷ったら2つ買う」ことをなし崩し的に始めてしまいました。

もともとスッキリ暮らすのが好きだった美登利さんですが、気がつけば家にはモノが増えていきました。

そんなある日、美登利さんは夫から広い家が手に入る隣県への引っ越しを提案されます。

緑豊かなところで暮らしたい、という大義名分はありつつも、じつのところ、荷物が収まり切らなくなったことがきっかけです。

現在の一戸建ては、2人暮らしには不相応な広さですが、夫に自分の意見を言えぬまま、荷物がいっぱいになってしまったのです。

ところが、東日本大震災が起こります。

新居を予定していたエリアは、原発事故による立ち入り禁止区域となってしまい、もはや引っ越すことの意味を見出せなくなってしまいました。

そんな時に出会ったのが「断捨離」でした。

美登利さんは、本を何度も読み、はやる気持ちを抑え、心の中でリストを作る日々。

そして5日目に満を持して実行。

OL時代のスーツに始まり、好きではない貰もらい物のブランドバック、足の痛みを我慢して履いていたハイヒール、姑からもらった厄よけ財布、手洗いすることで使わなくなった食洗機……。

美登利さんは「要・適・快」の視点で一気に断捨離を進めました。

当初、妻の嬉々としてモノを処分する姿を、夫は不思議そうに眺めていたそうです。

そして、自分の荷物がトランク1つが大げさではないほどの量になった時、美登利さんが都内のマンションへの引っ越しを提案すると、長距離通勤に疲れていた夫はあっさりと快諾。

そして、引っ越してから間もないある日、夫から「テレビいらないかもね」と言われたのです。

たしかに、一戸建てで使っていた60インチのテレビは、2LDKのマンションには不釣り合いな大きさ。

「迷ったら2つ買え」が口癖だった夫が「壁が白くて広いから、小さなプロジェクターを買えばいい」と言ったのには驚かされました。

1週間後、テレビのない生活がスタート。

それまでダラダラとテレビを観ながら食事をしていた夫が、美登利さんと向かい合って食べるようになり、会話の量も質も格段にUP。

さらに昼食をお腹いっぱい食べていた習慣を「断捨離する」と言い出し、手作りの野菜スープ持参で出勤するようになってから2年間で18kgの減量に成功し、健康診断もC判定からA判定になりました。

夫は、スリムになったことが嬉しいようで、着たい服を厳選して着るようになりました。

時を同じくして人事異動があり、昇進。

おまけに、「掃除は掃除ロボットで」と思っていた矢先、夫が会社の行事で特賞の掃除ロボットを当てたのです。

もう、びっくりを通り越して、口あんぐり状態……。

気づけば、夫婦の「仲の良さ」の質もすっかり変化しました。

結婚以来、ケンカ一つせず、お互い独身の延長のような日々でしたが、それは、「夫に嫌われたくない」という美登利さんの自己肯定感が低かったから。

言いたいことも言わずに、自分で責任を負わないラクさに寄りかかっていたからなのです。

美登利さんが黙々と「自分軸」の取り戻しに励むことで、夫婦の関係性にも大きな気づきがあり、夫をも好循環に巻き込んでいったのです。