『週刊ダイヤモンド』3月10日号の第1特集は「人生を再選択する副業」です。働き方改革の掛け声の下、世の中は副業ブームです。一般的に、副業というと小遣い稼ぎのようなイメージを持つ人が多いですが、最近では、好きを仕事にする、本業のスキルを磨く、転職・起業に備える、定年後も働くといった目的で副業を始める人が増えています。副業は人生を変える選択肢になりつつあるのです。

 好きなことを仕事にできたらいいのに──。誰もが一度は、そんな夢を抱いたことがあるだろう。

 諦めるのはまだ早い。本業では難しいかもしれないが、副業ならその夢をかなえるチャンスがある。

 田畑智恵さん(30歳)は、公認会計士として本業を持ちながら、自分の好きなパステルシャインアート(パステルを粉状にして、コットンになじませて絵を描く画法)を生徒に教えている。

 副業で好きなことをやろうと思ったきっかけは、過労で体調を崩したことだった。新卒で入った大手監査法人の仕事は、やりがいはあったが、とにかく毎日が数字との格闘で激務だった。

 体力を回復するためしばらく休養する中で出合ったのが「アートセラピー」。言葉で表現できないものを絵で表現することで心身を癒やし、元気を取り戻す心理療法だ。アートの力で自分が癒やされ、回復していくのが分かった。

 小さいころから絵を描くのが好きだったが、あらためてアートの力を実感した田畑さんは、「私のようにストレスで疲れている人をアートで元気にしたい」と思うようになる。

 そこで、誰にでも簡単に描けてヒーリング効果も高い、パステルシャインアートのマスターインストラクターの資格を取った。

 だが、講座を開くためには、講座の告知と生徒の募集、場所の確保などの準備が必要で、個人でやるにはハードルが高かった。そんなとき、知り合いから紹介されたのが「ストリートアカデミー(ストアカ)」だった。

 ストアカは教えたい人と学びたい人をマッチングしてつなぐネット上のプラットフォームだ。何かを教えたいという人は誰でも、無料で先生登録ができる。資格も経験も必要ない。先生に登録したら、次は講座の内容をフォームに入力する。それだけで講座ページが出来上がり、それを自分のブログやSNSでシェアして告知することができる。

 一方、何かを学びたいという人は、ストアカに登録された1万7000以上の講座から興味のあるものを探して簡単に予約することができる。誰でも教えて学べる仕組みが人気を呼び、2月末時点で講師は1万2000人、生徒は17万人に達している。

副業=小遣い稼ぎではない 続々登場する新しい選択肢

 週末に地方で働くーー。そんな副業の選択肢もある。

 副業・兼業限定で戦略顧問を募集──。2017年11月、広島県福山市が転職サイト運営のビズリーチと組んで、日本初の試みを始めた。

 今回福山市は、自治体として初めて、副業限定という条件で公募に踏み切った。中村啓悟・福山市企画財政局企画政策部長はその狙いをこう説明する。「間近に迫っている人口減少時代の先手を打つために、民間でバリバリ働いている人に参画してもらい、ネットワークと知見を生かしてこれまでにない発想で政策を考えてもらいたい」。

 一方、公募に協力したビズリーチ地域活性推進事業部チーフプロデューサーの加瀬澤良年氏には、「地方側には優秀な人材に対する強いニーズがある一方、当社の会員には、やりがいがあれば地方での転職を検討するという人が6割もいる。これをマッチングさせれば、新しい人材還流のモデルとなる」との期待がある。

 12月中旬に締め切った公募には、なんと395人の応募があった。当初の採用予定は1人だったが、「地域に貢献したいという情熱を持った方が想定以上にたくさんいた」(中村部長)ため、5人も採用することになった。

 採用が決まった5人のうちの1人、外資系メディア関連会社に勤務する西依清香さん(38歳)は、「女性として、母親として、すごく興味を引かれるテーマで、自分のこれまで身に付けたスキルも生かせそうだと思った」と志望動機を語る。

 もともとコンサルティング会社で働いていたため、情報収集・分析を通して全体像をつかむのは得意だ。また中小企業診断士の資格を持っており、商店街の活性化の手伝いをしたこともある。2児の母親という点で、人口減少対策の対象者に寄り添えるのではないかと考えている。

 一方で副業から得られるものも大きいと期待する。「何より視野を広げることができると思う」(西依さん)。

何かを始めるのに歳は関係ない 副業を始めてみよう

『週刊ダイヤモンド』3月10日号の第1特集は「人生を再選択する副業」です。政府が副業容認に大きくかじを切ったこともあり、2018年は「副業元年」といわれています。しかし実際に副業をしている人は全体の1割程度にとどまっています。なぜか。

 一番の原因は、「やってみたい副業が見つからない」からではないでしょうか。一般の人が考えている副業の選択肢は、下図のようなイメージだと思います。時間給の副業は、忙しい人にはちょっときつい。一方、成果給の副業は、ネット系の仕事のように報酬が安く割に合わないものが多い。

 実は、働き方が多様化する中で、上図のような副業だけでなく、新たな選択肢が続々登場しています。本特集では、そうした新たな選択肢から副業を実践している人たちの体験談をふんだんに集めました。

 週末限定で地方で働く人、好きなことを仕事にする人、本業のスキルを生かす人など、パラレルキャリア(複数の仕事を持つこと)で世界が広がり、人生も変わり得ることが、体験談からわかるでしょう。

 本特集では、副業に加えてセカンドキャリアの体験談もまとめました。人生100年といわれる時代に、セカンドキャリアは収入面だけでなく生きがいという点からも非常に重要です。どうやってセカンドキャリアを築けばいいのか、定年後も必要とされる人材の条件とは何なのか。その答えを特集でじっくりご覧ください。

 今回の特集取材で心に残った言葉が二つあります。一つは、元中日ドラゴンズ投手の山本昌さんの言葉です。

「変化を恐れず、毎年投球フォームを変え続けた。だから、技術的には、引退した50歳のときがピークだったと自信を持って言えます」

 もう一つは、80歳を超えてプログラミングを習得し、スマホアプリを開発した若宮正子さんの言葉です。

「何かを始めるのに年齢なんて関係ありません」

 副業をやってみたいけど迷っているという方、今からでも決して遅くはありません。変わることを恐れず、最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。