時間では癒えない
福島のPTSD

──辻内教授は昨年、福島第一原発事故をきっかけとした福島県から避難した人(全体)の47.0%(回答数1083件)がPTSDの可能性があるという研究を発表されました。それも16年調査の37.7%(回答数1021件)から大きく上昇したという結果でした。時間が経つに連れて数字が上がっているのはどういうことなのでしょうか。

「3.11」被災者のPTSDが7年目に増えた理由辻内琢也教授

 PTSDは、強烈なショック体験や、強いストレスが心のダメージとなり、時間が経っても強い恐怖を感じてしまうという症状で、一般的に自然災害の場合は、PTSDになる可能性が徐々に下がると言われています。しかし、福島から避難している人を調査すると、全く同じ対象の追跡調査ではないので単純比較はできませんが、12年に67%であったのが、13年60%、14年58%、15年41%、16年38%と、少しずつでも下がりつつあったのですが、昨年は前年を上回っていました。

 これは、生活を補償する制度が変わることを意識したんだと思います。避難指示が解除されると、1年後に賠償金が打ち切りになったり、自主避難者は住宅支援の打ち切られることが分かっていました。今後の生活への不安が理由だと思います。

 また福島では、地震や津波の自然災害ではなく、人為災害としての特徴が出ているのではないかと考えています。

──人為災害とはどういうことですか。

 人為災害とは、人が引き起こした事故や、環境汚染が問題となって起きる災害のことです。2005年に尼崎市で起きたJR福知山線の脱線事故や、1994年のエストニア号海難事件などが人為災害として研究されており、その被害者の中にはPTSDを発症した人が多くいます。

 史上最悪の海上油田事故と言われている88年の北海油田事故では、被害に遭った人の73%がPTSDを発症しています。なぜ高いかと言うと、事故調査によって安全システムの欠落が見つかったのにもかかわらず、企業の法的責任が問われなかったからなんです。

 94年のエストニア号事故では、乗船していた人の86%以上が亡くなりました。この事故に関する調査を3ヵ月、1年、3年、14年後と見ていくと、PTSDの可能性を示す数値が、1年後には3ヵ月後に比べると少し下がりましたが、その後は3年後も14年後もずっと高いままの数値が続いています。その理由は、国を巻き込んでの事故原因に関する論争が終結していないからだと指摘されています。設計ミスか、メンテナンスミスかなど、責任を押し付け合っているんです。

 こうした人為災害によるPTSDは、長期化しやすいという特徴があります。なぜなら、被害者救済が行われず、不透明な状況が続くからです。

「3.11」も、先行研究と同じく、原発事故の責任が明確にされないまま被災者救済が不十分になっていることが、PTSDのストレス症状をを長引かせているのではないかと考察しています。