もう一つは、小売りの店舗を舞台にした物語には、シンプルなスキルをきっちり使って成果を上げていくというシナリオのほうが現場感覚に馴染みやすいですし、ファシリテーションのプロセスも明快に理解してもらえると考えたのです。
ファシリテーターの得意技は
5つあれば十分
──前2作ではファシリテーションの様々なツールが紹介されていましたが、今回はその数を絞り込み、使い勝手のよいツールをくり返し登場させているように思いました。これも入門編を意識してのことでしょうか?
そうですね。じつは、私自身の経験を振り返ってみても、ファシリテーションにはそんなにたくさんのツールは要らないと思っています。それよりも得意技をいくつか持っておいて、いろいろな場面で応用できるようにしておくことが大切です。
スポーツの世界でも、強い選手が必ずしも得意技をたくさん持っているわけではありません。柔道で内股のうまい選手は、相手が必死で内股をかわそうとしても、最後はあざやかな一本を内股でとる。それと同じだと思います。
私が以前にまとめた『ファシリテーターの道具箱』(小社刊)では46のツールを紹介しましたが、それらをすべて使う必要はありません。むしろ、それらの中から自分に合ったツールが5つくらい見つかれば、いろいろな局面で使えるようになるはずです。
なぜ、ファシリテーションを
物語で伝えるのか?
──森さんが『ザ・ファシリテーター』シリーズを、通常の解説形式ではなくストーリー形式で書かれるのはなぜでしょうか?
最初はファシリテーションの要点をまとめたルールブックを書こうとしたのですが、読者の立場で考えたときに、現場で本当に使えるだろうかと疑問を感じたのです。ファシリテーションの現場では、ルールはこうだけど実際には違うという場面がたびたび訪れるからです。