日本食は伝統食ではない!?
一流シェフに学んだ驚きの事実

ミシュラン1つ星の料理人が「和食は変わるべき」と考える理由そばやうなぎの蒲焼きは江戸時代から。日本食は、新しい食材や調味料に合わせて常に工夫されて変化してきたフュージョン料理と言った方が正しいのだ

 東京オリンピックを2年後に控え、世界に日本を発信するという機運がかなり高まっているのは、クアラルンプールに住んでいるとよくわかる。

 クールジャパン戦略に基づくイベントが頻繁にあるのはもちろんのこと、クアラルンプール都心の高級ショッピングモールでは定期的に、日本文化紹介のためのセミナーが行われる。日本発のロボットパフォーマンスや伝統芸能の紹介など、その内容は多岐にわたる。

 その中で、特に人気なのは、日本人シェフによる「本物の和食」のセミナーだ。会費を払い、シェフの実演による解説を聞きながら、3~4品の和食をいただく。

 昨年、ミシュラン1つ星の名店、京都「木乃婦(きのぶ)」の高橋拓児シェフによる実演会に行ってきた。潰したエンドウ豆の緑色が鮮やかな椀物や、ゆずの薫り高い鶏の味噌漬け焼などを堪能した。80年の歴史を持つ木乃婦だが、京都の歴史からするとまだまだ若い店だと、高橋氏は解説していた。

 その高橋氏、世界を飛び回って和食を広める木乃婦の3代目というだけではない。実はご自身、京都大学大学院にて農学の修士号を取得。4月から別の大学で博士課程に進学する若手学者でもある。

 その経歴だけあって、料理の解説も極めて合理的だ。例えば、日本列島が縦に長いという地理的条件が、日本料理の基本を作るのに役立っているという。北端の北海道の冷たい海で育つ良質な昆布と、鹿児島や高知という南端で作られる鰹節を使って基本のだしができる。さらに、日本の水が軟水であることが、美味しい出汁をとるのに適している。日本の出汁は、その地理的条件なしには発達しえなかったのだ。

 高橋氏は、日本料理がなぜ、どのように発達したかをひも解きながら、世界の中で、いまの日本料理がどうあるべきかを探っているように、筆者には感じられた。

 その高橋氏に、イベント前に直接話をさせていただく機会があった。そのときに驚いたのは「日本食は日本人が思うのほど伝統食ではない」ということだった。