銃乱射事件後、グーグル検索の
データを分析すると…
2015年、米カリフォルニア州サンバーナーディーノで銃乱射事件が発生した。パキスタン系アメリカ人でありイスラム教徒だった犯人の名前が報じられるやいなや、ネット上はイスラム教徒を殺害せよという書き込みで溢れかえる。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ著、酒井泰介(訳) 、光文社、352ページ、1800円(税別)
事件の4日後、オバマ大統領(当時)は国民向け演説で「差別を拒むことは、宗派を問わずすべての米国人の責務」と語り、「自由は恐怖に勝ることを忘れないよう」呼びかけた。「タフで冷静」、「恐怖に判断力を曇らせられないよう促した」。人々の良心に語りかけ、受容と寛容の重要性を説いた演説はメディアに称賛された。
しかし、著者らがグーグル検索のデータを分析したところ、異なる実態が浮かび上がってきた。イスラム教徒を「テロリスト」、「悪人」、「暴力的」、「邪悪」などのワードと結びつけた検索が、演説終了後に倍増していたのだ。
本書『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』は、グーグルのデータサイエンティストや大学の客員講師などを務めてきた人物が、データ分析が浮き彫りにする事実やそのインパクトについて縦横無尽に語った一冊である。著者がメインに取り組むグーグル検索分析を中心に、大規模なデータを活用した調査の数々を紹介していく。
冒頭に取り上げたような政治関連でもう一例挙げたい。著者曰く、「クリントン トランプ 公開討論」と検索があった場合、検索した人が選挙でクリントンを支持する可能性は高い。両候補を含む検索においては、支持候補の名前を先に入力することの方がはるかに多いというのだ。実際、2016年アメリカ大統領選において、クリントンが勝つと見込まれていた中西部の重要州では「トランプ クリントン」検索の方が「クリントン トランプ」検索よりも如実に多かった。番狂わせとなったこの地域での勝利は、トランプ当選に大きく寄与している。