筆者は、この種の念書にサインして、同一グループの銀行・証券会社・信託銀行などに、銀行が得た自分のデータを共有させて活用させることに反対だ。自分でサインすることもないし、相談されたら誰にでも反対する。

 なぜなら、銀行はただでさえ個人のお金の事情についてよく知りすぎたセールス組織であり、これに加えて、銀行が持つ個人の情報を証券会社にも持たれるとなると、セールスマンとして手強すぎるからだ。

 今でも銀行は、個人の生活や信用力、お金の状況、時には嗜好まで預金口座の動きを通じて知ることができる。近年、銀行が信用判断に預金口座のデータを使うことはやむを得ないとしても、このデータをマーケティングに使うことについては、何らかの規制か少なくとも情報公開が必要であると考えてきた。

 この考え自体は変わらないのだが、例えば、個人客は、銀行が店頭で扱っている投資信託や貯蓄性保険などが、金融論的には手数料を考えただけでも「買わない方がいい」と断言できるような商品であることをあらかじめ分かっているなら、個人データがマーケティングに流用されることによって生じる危険(ダメな商品を買ってしまう可能性)を相当程度減ずることができる。

 毎月分配型の投資信託、貯蓄性の生命保険(外貨建てが多い)、ラップ運用など、顧客・投資家にとって不適切な商品・サービスによる顧客側の不利益は、正しい投資判断の方法を広く伝えることで、かなりの程度回避できそうだ。

 住宅街を歩いていると、ミニパトカーなどから、いわゆる「オレオレ詐欺」に注意するよう呼びかけている声を聞くことがあるが、あれと同様、あるいはそれ以上の注意喚起と啓蒙活動があっていいはずだ。ちなみに、ダメな金融商品によって被る知識不足の顧客不利益の規模は、オレオレ詐欺の被害の何桁か上だろう。

 情報企業が持っている個人データの利用に関するリスクは、金融マーケティングの問題よりもさらに複雑で規模が大きい。

 何をどのような形で注意喚起したらいいのかを決めることは難しいが、(1)広告に対する警戒心、(2)個人データをさらすことに関するリスクの知識、(3)ネットなどを通じた人の誘導に対する警戒心などを、人々に様々なチャネルで広く伝える広義の「教育」が、ある程度の即効性と有効があって、一律に規制することの弊害を回避しやすい、有効な手段なのではないだろうか。

 情報利用の本格的な規制に先立つ、社会教育のいわば予防医学的効果に期待したい。

(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)