昨秋に気が付いたのですが、外国人労働が凄まじく増えていて、この5年間で倍増しているんですね。過去5年で60万人増えて120万人になっている。あらゆるセクターで増えていますし、一番増えている在留資格が留学ビザと技能実習生ですから、低スキル低賃金の労働ですよね。彼らの弾力的な労働供給が増えているから賃金が思ったほどには上がらなかったということです。

橋本 最近、新しいタイプの非正規、低賃金労働者が増えています。

 全体的に所得が低迷しているから、今までだったら子どもが小学校に上がってからパートに出るはずだったお母さんが、幼稚園に入る前からパートに出るとか。65歳を過ぎた人がさらに非正規で働き続けるとかですね。今まであまり労働市場に出てこなかった人たちが参入することで、賃金が上がらなくなっている

 正社員の賃金が上がらないのはどのように説明できますか。

河野 正規労働と非正規労働の賃金決定のメカニズムはまったく別ものだと思ってます。

 非正規労働は労働需給がかなり影響しますが、正規労働は労働需給の影響をあまり受けず、基本的に生産性の上昇率とインフレで規定されています。生産性が上がらない原因には、資本市場からのプレッシャーによる短期主義が影響しているとみています。

 私は、基本的に生産性を規定しているのは人的資本だと思っています。かつての内部労働市場では、時間をかけて人的資本が蓄積されていくから生産性の高い仕事ができた。人的資本の蓄積の機会が少ない非正規雇用が増えただけではなく、正規雇用についても能力主義から成果主義にシフトしている企業も少なくない。

 そして、正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある。

 経営者も従業員もベアは固定費が上がり、終身雇用が持続できなくなるので、経営者が渋いだけでなく、組合も従業員もベアを望んでいない。

 米国で所得格差が拡大した理由として、よくいわれる要因が三つあります。イノベーションとグローバリゼーションと社会規範の変化。どれもつながっていて、ICT(情報通信技術)革命の結果、労働集約的な生産工程だけを新興国に移管することが可能になった。先進国の企業は自分たちが持っていたノウハウと新興国の安い労働力を組み合わせることで、業績を改善させることができるようになったのです。

 イノベーションによってグローバリゼーションが加速したということです。さらに、労働組合がどこの国でも弱体化し同時に、資本市場から企業経営者へ強いプレッシャーが働くようになる。もうかっていても簡単には賃金を上げられない。この結果、国内では経営者を含め生産性の高い高スキルの賃金は上がり、労働集約的な生産工程は海外に出るので、低スキルの賃金が低下する。

 人によっては、これは悪いことではない、という人もいるわけです。労働集約的な組立製造工程を海外へ出して、国内には研究開発とかアフターサービスとか、収益性の高い工程が残っているからと。