要約者レビュー
本書『弟子・藤井聡太の学び方』の著者である棋士・杉本昌隆氏と藤井聡太氏の出会いは、2009年3月の東海研修会だった。この研修会は、本格的に将棋を指したい子どもたちが集まる場所である。小学校高学年から中高生が多いなか、将棋盤の前に座っていた、ひときわ小さな男の子が藤井氏だった。
杉本昌隆、 255ページ、PHP研究所、1400円(税別)
とある対局でのこと。藤井氏は一見堅実な手を指して勝利したが、対局後の感想戦で明かされた手並みは実に鮮やかなものだったという。リスクをあえて負い、数手先で勝敗をひっくり返すような手を仕込んでいた。まだアマチュアとはいえ、豊かな発想力と天性のひらめきがあったと著者は当時を振り返る。
藤井氏は史上最年少の14歳2ヵ月でプロ棋士となった人材だ。天才的な資質をもっていることは想像に難くない。天賦の才に恵まれて羨ましいと思う人もいるかもしれない。しかし彼の強さは、才能の上にあぐらをかいてもたらされたものではない。本書を読んでいくと、そのことがよくわかる。
藤井氏は、いわゆる戦術書などに頼らない。戦いの場では常に最初から、自分の頭で考え抜く。好きだからこそ熱中できるという面もあるだろう。しかし決して楽をせず、手を抜かず、とことんまで追求する彼の姿勢には心を打たれるとともに、背筋が伸びる思いだ。
将棋がわからなくとも十分に楽しめる一冊である。将棋と真摯に向き合う棋士たちの姿は、私たちに学びの本質を示唆してくれる。目標に向かってがんばっている人にとっては、とくに得られるものが多いだろう。ぜひお手に取ってみていただきたい。(立花 彩)
本書の要点
(1) 将棋の世界でプロになれるのはごく一部のみだ。26歳までに四段になれなければ退会を余儀なくされる、厳しい世界である。
(2)藤井氏は幼いころからバツグンの才能を見せる一方で、自らの鋭い手によって転んでしまうこともあった。だが欠点はそれ自体が「個性」だ。何事も平均的にこなすタイプは、自分の才能に気づきにくい。
(3) 著者が不調で負けがこんだとき、プロへの進退をも左右する大事な局面で師匠からもらった言葉。それはあえて苦境を笑い飛ばすような激励だった。