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ポスト・ビッグデータ時代の経営

20年前AIに敗れてから
チェスはどのように進化してきたのか

――人とAIとのマリアージュを考える

KPMGコンサルティング
【第5回】 2018年4月12日
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センターウルスチェスと
Human-Machine Symbiosis研究

 Deep Blueに敗北した後、Kasparovはセンターウルスチェス(別名Advanced Chess)という、簡単に言えば、人とコンピューターが一つのチームを組んで試合を展開する形式の競技を提案しています。コンピューターは、現在の盤面を基に、次の打ち手として様々なケースの局面を演算して人に提案します。

 コンピューターの演算結果を参考として利用しつつ、最終決定と全体の戦略は人が下します。取りうる打ち手の組み合わせが相対的に少ない段階では高速に演算可能なコンピューターが実力を発揮しますが、打ち手が幾何級数的に存在する段階では人の抽象化やパターン認識能力の方が優れた判断を可能にします。従来のチェスと比較した場合、センターウルスチェスはミスが格段に少なく、競技レベルも高くなり、見る人には新たな示唆を提供することが可能になります。

 驚くことに、センターウルスチェスチャンピオンのチェス能力は、スーパーコンピューター単独チェス能力を圧倒的に凌駕し、場合によっては、プロとコンピューターのチームにアマチュアとコンピューターのチームが勝つ場合があります。

 実は、人と人工知能の能力の融合に関する研究は前述のチェスで活用される以前から存在していました。現在、メディアにたびたび登場する人工知能(Artificial Intelligence)は1970年代にMinskyの研究を基に、人間の知能を代替するスーパー知能を目指していました。一方、同時期に人の能力を機械で“拡張”させることを志向するHuman-Machine Symbiosisという考え方も存在し、それぞれが得意な領域(人:問題定義及びパターン認識と抽象化、機械:広範囲なデータ演算および早い学習能力)と不足な領域(人:既存の思考体系の踏襲、機械:問題定義および高難易度の問題解決能力)が明確であることに着眼点を置いた研究が行われていました。

「人と人工知能」の関係を
先に考慮しなければならない理由

 人の能力を人工知能によって拡張させ、ビジネスと組織内に浸透させれば、以下の効果を期待できるでしょう。

1.相互補完的アプローチは問題解決の効果を極大化することができる

 顧客に新たな価値を提供した代表的な例で自動車業界のADAS(Advanced Driver Assistant System)があります。現在、全世界市場において車両の主要なセールスポイントとして位置づけられたADASは、車両が人(ドライバー)を様々な段階でアシストし、より安全で快適な運転経験を提供するシステムです。

 その核となる機能は、人工知能によって、複数のセンサーから収集した車両自体や周辺環境のデータを高速演算し、車両の各状態に対して適切な意思決定を行います。これらによって、ドライバーが適切な走行を実施できるように指示を行ったり、必要に応じて緊急ブレーキを踏んだりすることが実現できます。

 また、工場の作業者とテクノロジーのシナジー効果を発揮した例としては、製造業の工場で活用されているSmart Collaborative Robotsが挙げられます。米国のRethink Robotics注2の提供するロボットは、既存の作業者と共働することを前提にデザインされており、人間のやりたがらないいわゆる3D(dull、dirty、dangerous)作業を代わりに行うだけでなく、事前のプログラミングがなくとも、作業者が直接ロボットの手を動かすことでその動きを学習することもできます。同じ作業場でも安全に働くことができ、既存の作業フローを大幅に変更することなく、作業の効率化と品質向上を達成することができます。現在、米国全域の中小企業において、こういったロボットの導入事例が多数存在し、製造業の工場が集中する中国でも年々販売量が増加しています。

注2:www.rethinkrobotics.com

 
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