政府への信頼こそ、
コストを最小化させる道

――すなわち、「除染作業」は、周辺住民の方々のそうした「心理的被害」や「心理的リスク」をできるたけ軽減するために行うべきだということでしょうか?

 そうです。ある一定のレベルを下回る放射線や放射能は、「健康的被害」や「健康的リスク」という観点からは、大きな問題にならなくとも、周辺住民の方々の「心理的被害」や「心理的リスク」を考えるなら、やはり大きな問題なのです。

 従って、ある一定レベルを下回る放射線や放射能に対する「除染作業」であっても、住民の不安や懸念を取り除くという目的で行うものと積極的に位置付けるべきでしょう。

 言葉を換えれば、「健康被害という意味では大きな問題が無いレベルなのに、それでも除染作業を行うことは、コストが無駄だ」と考えるのではなく、「そのコストは、周辺住民の方々が安心して暮らせるために、必要なコストである」と考えるべきであり、「社会心理的リスク」を低減するための「社会心理的コスト」であると考えるべきなのです。

――しかし、そうした考えに基づいて除染作業を行っていくと、コストが膨大なものになるのではないでしょうか? どうすれば、そのコストを低減できるのでしょうか?

 たしかに、除染の目的を、「環境から放射能を除去すること」と考えるかぎり、その作業は「シジフォスの神話」のごとく、徒労が繰り返される際限のないものになる可能性があります。

 しかし、除染作業の目的を「住民の方々の不安と懸念を取り除き、安心して頂くこと」と考えるならば、その目的を達成するためには、除染をすることだけが唯一の方法ではありません。

「住民の方々の安心」を達成するためには、「最善を尽くした除染作業」に加えて、

(1)環境放射能が基準値以下であることを確認し続ける「環境モニタリング」
(2)個人被曝線量が基準値以下であることを確認し続ける「個人モニタリング」
(3)住民の方々に対する科学的根拠に基づいた被曝リスクの「懇切丁寧な説明」

 という三つの活動が不可欠です。

 逆に言えば、「住民の方々の安心」という観点からは、これら三つの活動を徹底して行うことによって、除染作業への負担を減らしていくことができるのです。

 そして、「住民の方々の安心」という意味で、実は、最も重要なことがあります。

 それは、住民の方々から政府や自治体への「信頼」ということです。

 なぜなら、住民の方々から政府と自治体が「信頼」されていなければ、政府や自治体が、どれほど熱心に、「最善を尽くして除染を行いました」「環境放射能は、十分に低い値です」「あなたの被曝線量は、十分に許容範囲内です」「科学的には、被曝リスクは、この程度です」と説明しても、住民の方々は、納得も安心もできないからです。そして、最悪の場合には、「政府や自治体は、無理に住民を説得しようとしている」「政府や自治体は、重要なデータを隠しているのではないか」といった不信や疑心が広がってしまう可能性もあるのです。

 すなわち、コストという観点から見るならば、政府と自治体が住民から「信頼」されるということは、「社会心理的リスク」と「社会心理的コスト」を最小化する意味でも、実は、極めて重要なことなのです。