昨年の震災では多くの死者が出た。その際、問題が生じたのが遺体の取り扱いだった。震災から1年が過ぎると、そのことを検証しようとする機運はほとんどない。だが、今後の危機管理を考えると、少なくとも当時の教訓を基に、問題点は検証しておく必要がある。
そこで今回は、遺体を扱うプロフェッショナルである「エンバーマー」に取材を試みた。
遺体を扱うプロフェッショナル
エンバーマーが回想する「あの日」
「日頃から私たちはご遺体に関わり、エンバーミング処置を通じて、ご葬儀のお手伝いをさせていただいている。この仕事に誇りを持っているから、ためらうものはなかった」
一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)で事務局長を務める、加藤裕二氏が答えた。その横では、協会のスーパーバイザーである馬塲泰見氏がうなずく。私が「昨年3月、被災地の遺体安置所で多くの遺体を見たときに恐れを感じなかったのか」と尋ねたときだった。
2人は、遺体を扱うプロフェッショナルだ。加藤氏は20年近く葬儀業に関わってきた。現在は神奈川県で、エンバーミング(遺体衛生保全)業務をする株式会社SECの代表を務める。その傍ら、日本遺体衛生保全協会(IFSA)の事務局長として、加盟する葬儀社やエンバーマーをまとめる。
馬塲氏は、遺体の消毒や保存処置、必要に応じて修復する知識や技術を身に付けたエンバーマーである。兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線列車事故(2005年)の際も、遺体の処置に加わった。
加藤氏は、自らの経験を淡々と語り始めた。
「自殺をされた方のご遺体を自宅の2階から下ろしたり、海で見つかった腐乱した状態のご遺体を搬送したり……。トイレの中で亡くなった方のご遺体から、虫を取り払い、納棺したこともある」
私が「本当にためらいはないのか」と聞くと、加藤氏は「誰かがしないといけない。それを私たちがさせていただく」と答えた。これまでには、一緒に現場へ行き、損傷の激しい遺体を見て気分を悪くし、職を離れた人もいるという。