以上、誤嚥性肺炎のリスク管理において口腔衛生管理が、極めて重要であることがご理解いただけたことと思う。

阪神・淡路大震災の震災関連死の中で
最多数を占めた「誤嚥性肺炎」

 実は、このことが社会的に意識されたのは、ある大きな災害が関与している。実際はあまり知られてはいないが、過去に口腔衛生が悪化したことで誤嚥性肺炎による死者が急増し社会的な問題となった事実がある。

 それが、1995年に起きた阪神・淡路大震災である。

 震災による総死亡者6434人のうち、圧死などの直接死は5512人であり、それ以外の原因で震災後2ヵ月以内に亡くなられた方々は「震災関連死」といわれ、その数は総死亡者の14.3%にあたる922人にまで上った。

 その震災関連死の中でも最多数を占めたのが「肺炎」であり、さらには、そのほとんどが「誤嚥性肺炎」であったのである。

 その理由は明白だ。まずは命が最優先、寝る場所や食べ物を確保することに重点が置かれ、衛生面の管理は見過ごされた。断水や水不足により、歯磨きはもちろんのこと、うがいすら十分にできず、口の中の衛生状態は日を追うごとに悪化した。

 当然、入れ歯を洗うことなど到底できず、不衛生にも口の中に入れた状態が何日も経過した。その先は言うまでもない。口の中の細菌は急激に増殖し、歯周病原菌を多く含んだ唾液を誤嚥してしまったことで肺炎を発症する人が多発した。さらには、震災で入れ歯をなくしてしまった人もおり、食事がうまくできないために栄養障害から免疫力が低下し、それも相重なり、より一層誤嚥性肺炎が生じやすい状況に見舞われた。

 こうした震災時の経験から、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震では、いち早く歯科医師、歯科衛生士を主導とした、うがいや歯磨き、入れ歯の洗浄などの口腔清掃が徹底され、誤嚥性肺炎の発生予防が重要課題として行われた。