そのロボットは、携帯電話などの部品を製造するある会社のトップに“挑戦状”をたたき付けられたことから開発が始まった。「うちの工場には、なかなかロボットは入れられないなあ」。
挑戦状を受け取ったのは、川崎重工業の橋本康彦精密機械・ロボットカンパニープレジデントだ。さかのぼること約4年、登壇した講演会の懇親会でのことだった。
「いやいや、うちはいろいろな商品をそろえてますので、使えるものがあるはずです」。橋本は、産業用ロボットのリーディングカンパニーである川崎重工の名に懸け反論したが、部品会社の社長は「分かってない」の一点張り。「ならば」と、工場を見学させてもらった上で有用なロボットを提案する約束を取り付けた。
この工場見学に技術系の担当者として招集されたのが長谷川省吾だ。「やっぱり、今あるロボットは使えないな」(長谷川)。果たして工場に行ってみると、なぜこれまでのラインアップでは対応できないのかのみ込めたという。
安全柵なんか要らない!
人と共存できる双腕ロボ誕生
一口で言うと、従来の産業用ロボットには“手軽さ”が欠けていた。産業用ロボットは、作業場にただドンと置いただけでは何の役にも立たない。しかるべき作業をさせるにはさまざまな調整が必要であり、従来のものだとそれに3カ月~1年もの期間を要していた。