「人民元の水準は均衡レートに近づいたかもしれない」。温家宝首相や周小川・中国人民銀行総裁ら中国の高官は、そういった発言を繰り返している。その発言の最大の意図は、人民元切り上げを要求し続ける米国に対する牽制にある。しかし、それだけでなく、実際に昨年来、資金フロー上に変化が生じている。海外からのネット流入が何度かネット流出に転じている。
資金フローが変化した背景には、市場の人民元高観測が一時後退したこと、輸出の減少、人民元建て貿易の増加によって実需の外貨売りが減少したことなどがある。最近はネット流入に戻ったが、数年前ほどの大きさではない。人民銀行からは「ホットマネーの流入が減って、国内金融調節がやりやすくなった」と現状を歓迎している様子が感じられる。
ところで、李克強副首相は、昨年10月に香港で行った演説の中で、人民元オフショア市場創設の意向を明らかにした。人民元改革を国際的にアピールする必要性と、人民元建て貿易の拡大で海外保有の人民元が増えてきたことがオフショア市場創設の動機である。
国際決済銀行(BIS)は最近の論文で、「人民元オフショア市場が拡大して、中国企業が同市場で債券を発行するようになると、中国国内で過剰流動性が再び激しくなる恐れがある」と指摘した。将来的にはその可能性は否定できないが、当面の中国当局は、国内の金融規制が無力化してしまうほど野放しにオフショア市場を急拡大させることはないだろう。