この作品の真の魅力とは?

 この作品は居酒屋でのちょっとした会話から、1929年(昭和4年)に天然記念物に指定された鳴沢氷穴での主人公と幼なじみのデートや、主人公がマルチナのあまりに妖艶な姿に魅了されてしまうVR会議室などなど、それぞれのシーンの映像が自然と頭に浮かび、文字を読んでいるというよりも映画を見ているかの感覚にとらわれる、今までにない作品かもしれません。

 時代設定は、東京オリンピックの喧騒が去った2020年の秋。
 主人公の岩科正真(いわしな・しょうま)は、AIが実演調理をするロボティクスに客が流れたために実家の定食屋「キッチンいわしな」が潰れかかり、激しくAIを憎みます。
 しかし、打開策もなく、幼なじみの天才プログラマ、五條堀裕樹(ごじょうぼり・ひろき)が開発したマルチナに定食屋の再建を託すところから物語は始まります。
 そんな正真は、美しく成長した幼なじみの姫野沙羅(ひめの・さら)に恋心を抱くも、彼女の重大な秘密を知ってしまい、マルチナにも恋をしてしまいます。

 この「ヒトとAIの三角関係」という前代未聞のストーリー設定が「映像化のオファー」の理由と思いがちですが、一概にそうとは言い切れないところが『マルチナ、永遠のAI。』の魅力であるかと思います。

 確かに、所々、AIや仮想通貨の基礎的な話は登場しますが、そうした話は登場人物の日常的な会話や行動の一部になっており、かつ、その後起きる「事件」の伏線となっています。

 結果、ビジネス色は一切感じられないのに、読み終えたらAIや仮想通貨の基礎が身についているという仕掛けが施されているのです。

 テーマは、「シンギュラリティは起きるのか?」「政治はヒトがやるべきか、AIがやるべきか?」など多岐にわたりますが、陰謀に巻き込まれた正真やマルチナが最後に取る行動から垣間見える「AIと心」のシーンに、私自身、原稿段階で心が動きました。

 つまるところ、壮大なストーリーでありながら、SFではなく、わずか2年後にほぼ確実に我々の身の回りで起こることが正確無比に緻密に描かれているのが「映像化のオファー」の最大の理由なのかもしれません。

 担当編集者として、多くの方に『マルチナ、永遠のAI。』で「映画を観ているような読書体験」を楽しんでいただければと願っています。