かさ上げされた成長率見通しに加え、医療・介護制度などの歳出改革すらも後退した新財政健全化計画。財政再建に対する安倍政権のやる気のなさが浮き彫りとなっている。(ダイヤモンド・オンライン 特任編集委員・西井泰之)
「数字が出ると、キャップをはめて押さえるような議論になる。そうはしたくない」
4月末、社会保障費などの歳出改革案を打診するため官邸を訪れた麻生太郎財務相や主計局幹部に、安倍晋三首相はこう話したという。
「この政権では財政再建は難しいと、あらためて思わざるを得なかった」と幹部の一人は言う。
前哨戦は、自民党の財政再建特命委員会で展開されていた。
財務省側は新財政健全化計画の集中改革期間(2019~21年度)のうち20、21年度は、75歳以上になる人が戦後の混乱で少ないことを理由に、これまで3年間で年5000億円程度としてきた社会保障費の増加額の目標を、年4000億円に抑える案を持ち出した。だが、この案に厚生労働省と連携した厚労族議員が猛反発した。
財務省が特命委員会を議論の主舞台にしたのは、委員長の岸田文雄自民党政調会長が秋の総裁選で安倍首相に対抗して出馬する有力候補と目されているからだ。
「安倍首相とは違う経済政策で存在感を示す必要があるはず。財政再建の旗を掲げてやってくれるのではないか」(財務省幹部)
だが期待に反して、岸田氏は党内の議論を財務省寄りにまとめることはできなかった。
結局、新計画では安倍首相の「意向」を受け入れる形で、数値の目安はつくらず、高齢者の自己負担引き上げなど医療・介護制度の改革の議論も当面、封印された。
「19年夏の参院選を前に、負担増の話はとんでもないという感じだった」(別の財務省幹部)
1990年代以降の政府債務の増加額は社会保障費と国債費の増額分とほぼ一致する。高齢化によって膨張する費用を借金で賄い、赤字が雪だるま式に増える悪循環を断とうと増税や歳出改革が行われてきたが、「安倍1強政権」では後退が目立つ。