事業の正しい
見切り時とは

板東 その後、どうされたんですか?
藤田 利益が出ているうちに、ある大手さんに事業を売却しました。
板東 私が藤田さんでも、そうしたかもしれません。ジリ貧になる分野からは、利益が出ているうちに撤退すべきですよね。そうして得た経営資源を、自社の優位性が活かせて、今後伸びていく市場に集中する――それが経営者の役割のなかで、最も大きなものかもしれません。
藤田 事業の売却を考え始めた頃から、ホームページの作成代行のようなことも始めつつ、毎日「次の事業はなんだ?」と考え続けていたんですね。そして99年にNTTドコモの「i-mode」が登場すると、ようやく僕も「インターネットって何ですか?」みたいな状態から(苦笑)、「そうか、今後は携帯電話で、通話だけじゃなくコンテンツも楽しめるようになるのか」とわかってきて、ここで何かを始めたいと考えるようになったんです。
そんななかで立ち上げたのが、「パケ割」というサービスでした。当時はまだパケット通信料が高額で、ニュースを読むと1ページあたり10円くらいかかっていたんです。これを受けて、データを圧縮してコンテンツを読んでもらう企画を発案しました。
しかしこれは、すぐ撤退しました。システムコストが高額だったため、赤字になったんです(笑)。それでも、1ヵ月間に約60万人からのユニークアクセスがあり、「モバイルでインターネットに接続する生活習慣は、今後間違いなく一般化する」とわかったことは非常に大きかったですね。
板東 お金を出して失敗を買ったわけですね。
藤田 本当にそうです。この失敗が、2004年に音楽配信の「着うた」事業を始めるきっかけになりました。携帯電話利用者の着信音を、ダウンロードした「着うた」に変更できるサービスがこれから来ると踏んだんです。
そこでコンテンツを集めつつ、お客さんを一気に集めました。当時は「i-mode」ポータルに「こういうサービスがあります」と掲載されればお客さんが集まる時代だったんですが、当社はそれだけではなく、わざわざガラケーの小さな画面にモバイル広告を出してお客さんを集め、大手コンテンツホルダーさんに「これだけ会員がいますよ」と交渉を始めていったんです。
板東 しかし、また別の事業へと移っていきますね。
藤田 携帯電話の事業と同じで「何年後までこれを続けられるのか」となったんです。大企業に勝つためには、シェアの10%は必要です。しかし音楽配信の業界でシェア10%以上をとれるロジックが見つからなかったんですね。
板東 ちなみに藤田さんは、どんなタイミングがきたら「この事業はここまでだ」と考えるんでしょう?
藤田 私の場合、「このまま伸びていけば自社がトップシェアを持てる」というロジックを持てなくなったら、その事業は諦めます。逆に、小さな市場でもトップシェアを獲得できるなら、続けてもいいと思っています。その市場をデザインできますからね。