噓つきは、人とはちがうインセンティブに反応する

 この通り、デイビッド・リー・ロスもソロモン王も、ゲーム理論を有意義に実践していたわけだ。ゲーム理論ってのは狭い意味で言うと、相手の次の動きを予測して、相手を打ち負かそうとする策略をいう。

 その昔、ゲーム理論が世界を制覇すると経済学者が信じていた時代があった。ゲーム理論は重要なものごとの結果に影響を与えたり、予測したりするのに役立つと期待されていた。でも、ああ残念、それほどは役に立たないし、おもしろくもないことがわかった。世界は複雑すぎて、ゲーム理論で思ったような魔法をかけることはできなかった。でも思い出してほしい。フリークみたいに考えるってことは、シンプルに考えるってことだ――ソロモン王とデイビッド・リー・ロスが示したように、ゲーム理論もシンプルに使えば驚くほどの効果を挙げられるのだ。

 二人は状況こそまるっきりちがうが、同じ問題を抱えていた。

 誰も自分から罪を告白しようとしないとき、無罪の人と有罪の人とをどうより分けるかという問題だ。経済学用語で言うと、「一括均衡」――ソロモン王のケースでは二人の母、ヴァン・ヘイレンのケースではツアーのプロモーター全員――を「分離均衡」に分ける必要があった。

 噓をついている人やずるをしている人は、正直な人とはちがうインセンティブに反応することが多い。このことを利用して、悪者を探し出せないだろうか?

 そうするには、まずインセンティブが一般にどうはたらくかを理解してから(本書第6章「赤ちゃんにお菓子を与えるように――地球はインセンティブで回っている」を読んだのであればもう大丈夫)、次に特定のインセンティブにどういう人がどう反応するかを理解する必要がある(本章「ソロモン王とデイビッド・リー・ロスの共通点は何か?――庭に雑草を引っこ抜かせる方法」で説明するから大丈夫)。

 フリークが「武器」としてもっているツールのなかには、一生に一、二度しか役に立たなそうなものもある。これは、そういうツールの一つだ。でも強力だし、ある種の優美さがあると言ってもいい。何しろやましいところのある人たちを、図らずも自分の行動を通して罪を告白するよう陥れるんだから。

 このトリックの名前は何だろう? 歴史の本や文献を漁って正式名称を探したけれど、どうしても見つからなかった。だから名前を考えよう。ソロモン王にあやかって、この仕掛けをいにしえの忘れ去られたことわざに見立てることにする。その名も「庭に雑草を引っこ抜かせる」方法だ。

(※この原稿は書籍『0ベース思考』の第7章から一部を抜粋して掲載しています)